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評者◆小嵐九八郎
魂の根源を探してさすらう――夫馬基彦著『オキナワ 大神の声』(飛鳥新社・本体二二〇〇円)
No.2931 ・ 2009年08月29日




 四十年前、新婚旅行は奄美の徳之島だった。三十年前、所用があり、復帰後の沖縄本島に行った。那覇の国際通りから入った市場のむんむんするパワー、途轍もなく大きい米軍基地、人の善さ、言語の違いに衝撃を受けた。というより、東京よりよっぽどアジアや世界の中心なのだ。風葬の話を書くために粟国島へ、鮫は出ないけど鮫の話を書くために波照間島へ、単に遊ぶために石垣島や竹富島、鳩間島へも行った。空や海が美しいだけでなく、琉球弧の歴史、文化、社会、政治は一括りでは語れないことも解りかけた。
 先月、仕事抜きで那覇を、旧友と会うために訪ねた。変わらず、人は優しい。マンゴーは高価だったが、市場の奥へと行くほどに安くなり、旬で、おいしい。ただ、モノレールができて便利になったのだが、どうも本土の不景気風が本土並みにしみ渡っているような、つまり、本土の影響が甚だ強くなったような、それに、イラクとかアフガニスタンとかに無法に出かけて自らの首を締めているアメリカの元気のなさも本格的に滲み出てきたような。
 こんな好い加減な観察者の俺とはまるで別で、琉球弧にのめり込み、いや違いますな、人人や風土を愛し、うーむ、これも違うみたいですな、魂の根源を探してさすらうといって良いのか、そういう小説が先月出た。
 夫馬基彦氏の『オキナワ 大神の声』(飛鳥新社、本体2200円)だ。読み切りの短編連作集である。二五〇頁強なのに、ちと高価だが、その分、中身は濃いし、楽しい。
 そもそも夫馬基彦氏は、学生運動から離れてインドを放浪し、口から伝染する肝炎に罹りながらも一年余り歩き続けた御仁。自身の心のふるさとはどこかだけではない、原始仏教的な回帰を、歴史や現実と交叉させながら、求める作家。この連作集の中では、なるほど「自信作」と言うように冒頭の、宮古島から更に向こうの”女の島”の不思議さと大自然、えっ、かの唐牛健太郎も出てくる与論島のヒッピーの英雄の話など、好奇心だけでも先に誘う。ふっふ、これが一番に娯楽作家には胸にきたのだけれど、島の女と寝る『大神の声』が、優れもの。
(作家・歌人)







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