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評者◆秋竜山
会話本はなぜ面白いのか、の巻
No.2930 ・ 2009年08月15日




 画のないコミックも成立するんだと、思わせてくれる本。文字だけによる。コミックの原作か。と、いうと、それとは違う。文字だけによるコミック本である。飯田史彦『親が子に語る人生論――生きる意味の伝え方』(PHP文庫、本体五三三円)を読みながらの感想。
 〈小学校の高学年から中学・高校生、そして大学生までの読者を念頭に置き、どの年齢層の読者でも「自分」に置き換えながらお読みいただけるよう表現と構成を工夫しました。〉(著者の言葉)
 その表現と構成が、さながらコミックの世界である。コミックという〈漫画手法〉が無い時代は、このように文字だけによって表現したのだろう。そして、コミックの発見によって画と文字での表現となる。その過去をへて、今度と又、画の無い文字だけの表現となる。それが、この本の構成というものではないだろうか。今の子供たちにとっては、この本を読みながら、おそらく、頭の中に浮かんでくるのはコミックの画ではないかと思う。本書の登場人物は〈父・母―娘―息子〉であり、それ以外の人物は登場しない。
 〈(略)会話文というものが、予想をはるかに超えた難しさであることに気づきました。まず、会話として生き生きした文章を心がけると、日本語として、くだけすぎた、漫画のセリフのような文調になってしまいます。逆に、子どもたちが読んでくださることから教育的配慮を行い、日本語として格調の高い・美しい文体を心がければ、会話としての生々しさが損なわれてしまうのです。そもそも、中学一年生でも理解できる用語の範囲で書きましたから、高度な言葉や表現は、ほとんど使えませんでした。〉(本書より)
 よかったのは〈高度な言葉や表現は、ほとんど使えませんでした。〉ということ。高度な言葉や表現というもの、によってせっかくの文章がわかりにくくなってしまう例はいくらでもある。わかりやすい文章こそ、本当の高度な文章ということになるのではないだろうか。コミックの〈ふき出し〉の中の会話の文章は、なんと高度な文章であるか。日本語として最高の文章でないかとさえ思えてくる(自分がマンガ家だと、どうしても身ビーキになってしまう悪いクセとでも申しましょうか。困ったものだ)。本書に登場する家庭。そして〈父、母、娘、息子〉たち。それらがすべて、コミック画の人物として頭の中に浮び、会話していることとなれば、これはしめたものである。
 〈父‥それじゃ、いろんなものを考えるのは「脳」なのに、人を愛するのは、どうして「心」なんだ?「心」が「脳」の思考作用のことを指してるんなら、人を愛するのも「脳」の作用だろ?
娘‥う~ん……。
父‥だったら、「脳」のほかに、わざわざ「心」なんて言葉を使わなくても、「あなたを脳から愛しています」って言えば、いいじゃないか。
息子‥なんか、こんがらがってきたぞ。〉(本書より)
 会話本というのはなぜ面白いのか。それは読み手がコミック作者になり脳の中でコミックを描いているからだ。心の中でコミックを描いていると、いってもいいかもしれない。







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