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評者◆添田馨
“滅亡”という“物語”――中森美方の発言にみる、現代詩の状況
No.2930 ・ 2009年08月15日




 いま、日本の現代詩にもっとも不足しているものは何だろう。最近つとに思うことなのだが、それは“物語”ではないかという気がする。誤解しないでいただきたいのだが、いま書かれている個々の詩作品が物語風になっていないということではない。それをどのように名づけるにせよ、「詩」という全体的な“物語”がうまく見えて来ないのである。
 例えば「戦後詩」には、確かにある種の“物語”が存在した。「六○年代詩」にも、やはり一定の“物語”はあった。だが、これが七○年代、八○年代になると、はなはだ怪しくなってくる。“物語”はあるにはあるのだが、非常に細分化されたかたちで、「詩」の周りを浮遊していた印象だ。だが現在では、“物語る”という行為そのものが、極めて成立しにくくなっている。“物語”は、それを\"来歴\"と言い換えてみてもいい。
 中森美方は「伝播」(第1号)のなかで、果敢にこの困難な「詩」の“物語”を紡ごうとする。「現代詩の来歴と行方」について、万葉前期から現在までのざっと千五百年にわたる詩歌の伝統を視野に据えながら、「生活の基盤から離れ、観念性が強いこと、修辞的技法によって情動を浮上させようとすること、美の幻影を求めること、これらの傾向によって『新古今集』あたりと現代詩の状況は合致している。巧緻を極めれば極めるほどに、現実から遊離してゆき、自己完結性にとどまる。表現の行きつく先の無さへの断念のようなものがある。これはもう詩歌の滅びの姿である」と述べている。
 これらの言葉を前に、思わず居住まいを正した私だが、中森氏は決して「詩は滅んだ」とは言っていない。つまるところ、中森氏がここで描き出しているのは、詩へのネガティブな視線が捉えた“滅亡”という新たな“物語”に他ならないだろう。おかしな話だが、私は現在の詩に対するこの否定的言辞に触れ、逆にとても勇気づけられる気がした。“滅亡”という“物語”を、「現代詩」は今からどれだけ生きられるのか。それは、詩人が…、と考えても、無論、おなじことだ。しばらくの間、このテーマを追いかけることにする。
(詩人・批評家)







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