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評者◆秋竜山
見ろ! 顔がゴミのようだ、の巻
No.2928 ・ 2009年08月01日




 面白い本。春日武彦『顔面考』(河出文庫・本体820円)。洗面所の鏡に映っている自分の顔。ニッ!!と笑ってみる。「オッ!!俺は今、笑い顔をしている。笑っている」。人間の笑い顔こそ一番素晴らしい。とか。それでは、俺の顔も、素晴らしいのか。そんなことはないだろう。造り笑いだからだろうか。
 〈顔に対して、小賢しい意味付けをしたり解釈をしてみせることは容易である。大概の論を受け入れるだけの許容力と普遍性とが顔には備わっている。とはいうものの、どれだけ論を尽くしてみようとも、常にそれらの言説には物足りなさがつきまとう。顔のもたらす強烈な実在感の前には、あらゆる論もたちまち霞んでしまう。顔について論じようとすればするほど、その試みこそに「いかがわしさ」がつきまとってしまうのである。それなのに顔について語らずにはいられないことこそが、まさに秘められた特質といえるに違いない。〉(本書より)
 この本の最後に書かれてある一文である。著者の正直な思いであろう。本書ではSFのウェルズの作品『モロー博士の島』を引用している。
 〈この小説の中で、わたしがもっとも興味深く感じた箇所は次のようなものであった。不気味な動物人間を目にしたプレンディックは、それが人間を動物へと改造した、つまり人間を退化させた産物であろうと思い込むのである。そこで自分もあんなふうに半動物にさせられてはたまらない、とパニックに陥るのである。しかし実際には話はまったく逆で、動物が人間へと変えられていたのである。(略)なるほど動物人間と人間動物は区別がつかない。〉(本書より)
 なんだか人間を見るのが恐ろしくなってくる。「ウン、あいつは動物人間だ!!」とか。「彼女こそ、人間動物である」とか。ヒトを見ると、そのどっちかである。なんて。では、自分はいったい、どっちなんだ。〈醜形恐怖症〉があるという。自分の顔についてである。
 〈たまたま鏡やガラスに映った自分を見て「突如」気づいたり、友人や身内にからかわれたり揶揄されることが契機となりがちなようである。〉(本書より)
 これは、病気であるという。それも思春期男子に生じやすいという。自分はこのような顔をしているのだから、あきらめるしかないだろう。と考えられないから病気なんだろう。
 〈どのような表現で彼らは自分の顔の醜さを訴えてくるのだろうか。「顔全体が醜い」「顔が全てにわたっておかしい」「顔がバカのようだ」「顔が老人のようだ」「顔全体が嫌な雰囲気を発散させている」「顔が歪んでいる」「女の子のような顔だ(男子例)」といった言い回しが多い。〉(本書より)
 よく考えてみれば、世の中の人間すべてが醜形恐怖症に症状の差こそあれ陥っているかもしれない。そう考えれば自分一人で悩むことはちっともないだろう。「あの……、ちょっとおうかがいいたしますが。もしかして、あなたは醜形恐怖症に陥って悩んでいるのではありませんか?」なんて、道ですれ違った知らない人に、こんなことを言ったら、どーなるか。「実は、そーなんです」なんて答える人はまずなかろう。この症状は自分からうったえるべきものだろう。







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