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評者◆小嵐九八郎
おおっぴらに、おおらかに、野放図に――野口あやこ著『くびすじの欠片』
くびすじの欠片
野口あやこ
No.2926 ・ 2009年07月18日




 自称歌人でもある。といっても、短歌結社の歌誌には二十年以上欠詠していて、これでは迷惑をかけるだろうと一昨年あたりに結社はやめた。短歌を作りだしたのは、そろそろイデオロギーに疲れてくる三十代終わりの監獄だったけれど、この詩の器というのは、決まった形式なのに、哭き、歓び、煽動、自己陶酔と浄化、物語性、自己脚色化、場合によっては自然や宇宙との合一性と、実に懐が広く、定型の黄金律を内包して深い。少なくとも、名歌の凄みが作歌するようになって解ってきて、たった一度の人生、出会ってとても嬉しいと思っている。ま、しかし、どうしても感性的に納得できないところもあって、その一つに、中年男や老人が恋だの愛だのを歌う時の照れを超えた惨めさにある……ような。
 娯楽小説家なので俗な言葉を多用して恐縮してしまうが、推定ぴちぴちお嬢さんであろう人の十五歳から二十歳の時に作った歌が本になり、読んだ。このくらいの若さの時は、恋や愛や性をおおっぴらに、おおらかに、野放図に歌ってもいい、歌人の一回こっきりの生の時だろう――歌は短い詩の形なので、作者がどうしても穿鑿されてしまうから。
 野口あやこさんの『くびすじの欠片』(短歌研究社、本体1700円)である。十八歳の時に短歌研究新人賞の次席、十九歳で同新人賞をもらっていて、その作品も入っている。《あなたでは絶対触れられない場所にオリーブ色の蝶々を飼う》
 どうやらこの「あなた」は教師であるらしい。作り手の\"怖い\"キャラクターが解りかける。《触れて欲しい場所に触れてもらうため線香の火を避けて歩めり》
 当方の書く百枚のベッドシーンより遙かに濃くてロマンに溢れるたった一行の詩である。《窓ぎわに赤いタチアオイ見えていてそこしか触れないなんてよわむし》
 短歌の空想力のせいか、ではなく、やはり性もブンガクにして昇華し得る才にありそうだ。結句「よわむし」は今の若い男の風俗的、思想的な脆ささえ煮つめている。
(作家・歌人)







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