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評者◆秋竜山
堂々と「好き」と言おう、の巻
No.2926 ・ 2009年07月18日




 「好き」と、いえるか。「嫌い」と、いえるか。私は気が小さいから「嫌い」とは、いえない。もし、「嫌い」と、いったとしたら、身の置きどころがなくなってしまうだろう。やっぱり気が小さいんだなァ…… 私は。嫌いといわれた人の身になってみると、不ゆかいになるに違いないと、思ったりもする。もし、自分が嫌いといわれたら、メシものどに通らなくなってしまうだろう。「好き」は違う。「好き」とは堂々といえる。もしかすると、いわれたものが迷わくするだろうと思ってもだ(男と女においてだが、ね)。「好き」と、いいたいし、いわれもしたいものだ。石原慎太郎『私の好きな日本人』(幻冬舎・本体八四〇円)では、「好きな人」が沢山でてくる。もちろん著者の好きな日本人である。いわれた人たちは悪い気はしないだろう。喜んでいると思う。とはいえ、みんな故人であるから、あの世で喜んでいるだろう。好きといわれて文句をいう人は一人もいないだろう。石原慎太郎という日本の有名人が、〈私の好きな10人の日本人〉を選んだのが、この本である。10人の中に3人も画家が入っていた。のが、うれしくなった。〈岡本太郎〉であり〈横山隆一〉であり〈奥野肇〉である。岡本太郎は計りしれない自由奔放な芸術家であった。変てこな芸術家でもあった。「何だこれは!!」という作品をつくらなかったら芸術家とはいえないと岡本太郎はいった。奥野肇という人は〈著者の高校時代の美術教師〉である。
 〈彼が私に教えた、というよりも伝えてくれたものは人間の自由、すなわち感性の自由に他ならない。それこそが人生における本物の教示といえるに違いない。そしていつか私がかっての美術教師とした色の明暗についての議論の話をしたら、あまり興味なさそうに聞いていたが、「黒は白地に描くと他のどんな色よりも鮮烈だよ。俺の実家には昔鉄斎が描いていった襖があるけど、あいつの墨絵は下手な油絵よりもはるかに明るいぜ。鳥居の赤は色褪せるけど、黒は絶対に色褪せはしないよな」といった後、「お前な、芸術ってのは勝手にやればいいんだよ。絵だって好きに描けばいいんだ。四角なものでも丸く見えたら丸く描きゃあいいんだ。それが芸術ってもんだよ」と。その一瞬私は何か雷みたいなものに打たれたような気持ちでそれを聞いていた。あれは私の人生を決めた啓示の一つだった。〉(本書より)
 いい文章だ。私など単純な人間だからこの文章を読んで感動してしまった。そして、この本でなによりもうれしかったのは、漫画家の横山隆一先生をとり上げてくれたということだった。この文章を読むと、その通りのことが書かれてある。
 〈世の中には会う度にいかにも懐かしい人というのが、ままいるものだ。人との関わりについて感興としては順が逆ではないかといわれそうだが、そうではない。久し振りに期待して会ってということではなしに、たまさか会ってみたら、つい先日も会ったのに、とにかく会う度楽しくて心が安らぐ、心がときめくという人物だ。(略)私にとっては横山隆一さんこそがそんな人だった。〉(本書より)
 横山先生は石原さんのことを、よくうれしそうに話されていた。この文章を横山先生に読んでいただきたかった。喜んだろうなァ!!と、しみじみ思った。







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