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評者◆秋竜山
その気になっちゃう女性、の巻
No.2924 ・ 2009年07月04日




 速水豊『シュルレアリスム絵画と日本――イメージの受容と創造』(日本放送出版協会、本体一二六〇円)を読む。そして、非常にいい文章に出会った。もし、「あなたにとって、シュルレアリスム絵画とはどのようなものですか?」と、聞かれたら、この文章で答えたらカンペキではなかろうか、とも自信を持てる文章ではなかろうか。
 〈一度見たら忘れられなくなるようなこの奇妙なイメージ自体がおよぼしたかも知れない効果において、この作品が掲載されたことの重要性があると考えるべきである。〉(本書より)
 一度見たら忘れなくなるようなこの奇妙なイメージ自体……とあるが、このような出来事ってあるものだ。シュルレアリスム・イメージがそうであることは、たしかに一種のショックを受けるからそうであることは間違いないだろう。つまり、どーなんだろうか。一度見たら忘れなくなるような奇妙な体験を、すべてシュルレアリスム体験としてとらえてよいのだろうか。たとえば、道を歩いていて何かの出来事にぶつかる。「ワッ!!これはシュルレアリスムだ!!」と叫んだとして間違っているだろうか。驚き!! でもある。衝撃である。忘れられない出会いでもある。
 〈画家たちの作品がシュルレアリスムの名のもとに初めて展示されたのは、アンドレ・ブルトンのシュルレアリスム宣言が発表された翌年の一九二五年一一月一四日から二五日まで、パリのピエール画廊で開催された「シュルレアリスム絵画」展においてであった。これは画商でコレクターのピエール・ロブが組織した展覧会であり、出品されたのは、ハンス・アルプ、ジョルジョ・デ・キリコ、マックス・エルンストなど、九人による計一九点の作品である。(略)この初めてのシュルレアリスム展を訪れた日本人がいた。美術評論家の森口多重と画家の福沢一郎である。〉(本書より)
 日本のシュルレアリスムの絵画といったらすぐ頭に浮かぶのは福沢一郎であり古賀春江、三岸好太郎や飯田操朗らであろう。そして、特に知られているのは古賀春江だ。それも〈海〉一九二九年・東京国立近代美術館、であり〈窓外の化粧〉一九三〇年・神奈川県立近代美術館、などが多く目にふれることだ。〈一度見たら忘れなくなるようなこの奇妙なイメージ自体……、〉ということになるだろう。すぐ忘れてしまうような作品ではシュルレアリスムの絵画とはいえないのかもしれない。〈海〉に登場している〈水着の女性〉は、アレはいったい何を意味するものか。もし、この作品に、この水着の女性が描かれてなかったら、果してこの作品はどのようになってしまったのか。この作品で忘れなくなってしまったのは、この水着の女性だ。水着の女性の写真とか絵画とか沢山あるが全部忘れてしまっているが、この〈海〉における水着の女性は奇妙でもある。〈窓外の化粧〉という作品についても、ビルの上で大の字のポーズをとっている女性についても、やっぱり忘れられない。ここで、わかったことは、シュルレアリスム作品を描こうとした時、まず第一に、女性を描くということだ。しかも一度見たら忘れなくなってしまうような奇妙な女性であるということだ。飛行機の上で逆立ちしている女性などどうだろうか。なんだかその気になってきたぞ。







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