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評者◆秋竜山
民営You Say!、の巻
No.2923 ・ 2009年06月27日




 楽をして得をとる。いや、楽をして本を取るだろう。ものぐさの楽である。楽をして散歩する。原島広至著『東京今昔散歩――彩色絵はがき・古地図から眺める』(中経出版、本体六五七円)が、その本の一番楽な散歩とは、タタミの上で寝ころんで散歩の本をみる、ということにつきる。ものぐさの散歩の常道である。知らない間に眠ってしまう。だからといってキケンはない。タタミの上だ。ハッと気づく。眼があく。またページをめくる。食っちゃ寝。いや、読んじゃ寝。今、散歩本が流行しているようだ。書店では特別コーナーまでつくられて様々な散歩本が並べられている。〈江戸から伝わる風情を味わい明治・大正の変貌をたどり現地で違いを見比べる。東京の名所めぐりのお供に〉というオビのコピーである。
 〈明治大正時代、まだカラー印刷の技術が開発されていない時代、名所の”彩色”古写真や”彩色”絵はがきが広く出回り、日本に来た外国人のお土産用や海外へ輸出もされていた。実は職人が水彩で一つ一つ色付けを施していたため、手彩色絵はがきと呼ばれていた。写真の台頭によって仕事が減った浮世絵職人・画家たちが多くこの彩色に携わったという。すべて手作業のため、塗り手によって違いが生じる。丁寧な塗りあり、大雑把なものあり、淡い色調もあれば、サイケ調のものまで存在した。〉(本書より)
 昔、龍宮城は絵にも描けない美しさであったということだ。一流の画家であったとしてもだ。現実において、同じような味わいをすることになる。写真をみて画家はうなった。「絵にも描けないリアルさだ!!」この一言によって浮世絵職人や画家たちは失業した。そのかわり新たな仕事がうまれた。絵はがきに手彩色という作業である。絵筆をつかえるということだ。本書の手彩色絵はがきをみると、いかにも浮世絵風色付けであることがわかる。江戸の浮世絵とちがって、リアルそのものの浮世絵ということになる。きっと色付けをしながら溜息などついただろう。「やっぱり、時代だなァ……」。手彩色絵はがきをみていると、どの空の色も一緒であることに気づく。そして、この空は、昭和や平成の空の色ではなく、あくまでも明治・大正時代の色合いだ。と、いうよりか、その当時の浮世絵職人や画家のセンスということになるのだろうか。私は、その空が好きである。本書では、明治・大正とかの昔の風景と同じ場所の現代の風景画が並べて掲載されている。その現代の風景の空の色の、なんとつまらない現実的な色合いであることにガッカリする。手彩色したいくらいである。
 〈1900年(明治33)に私製葉書の使用が認可されて以来、様々な絵柄の絵はがきが発行され、収集が流行するようになった〉(本書より)
 手彩色絵はがきは大量生産できなかった。大量生産ができなかったことがよかったと思う。つまり、大量生産は職人のセンスを殺してしまう。手彩色絵はがきは何枚でも収集できる。同じ風景であっても同じ色彩ではなかったからだ(手彩色絵はがきには、大量生産品では味わえない一つ一つの趣き・個性がある)。そんな絵はがきをつくるセンスが民営郵政にあるだろうか。わからない。







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