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評者◆小嵐九八郎
主役への深い畏怖に頭が垂れる
No.2923 ・ 2009年06月27日




 本紙で”六〇年代・七〇年代を検証する”シリーズの聞き手役をやっていて、こりゃ、たいへんな仕事と分かりかけてきた。ターゲット、おっと失礼、主役の生を勉強しなければならない、主役の果たした営為の底とか、本音とか、汗とか、できれば未公開の秘話も引き出したいと七転八倒する。煙草と酒が、ガンの根拠であるストレスを解消する”薬”という信念を持っているけれど、主役の人は拘置所にいたり、この二つが嫌いだったりするわけで、やるせなくもなる。でも、主役の予期せぬ苦しみ,廻り道、根っこの迫る力に出会えた時の嬉しさは、売れねばならん小説を脱稿する時以上に、自己に酔っていれば良い短歌の抒情より、良い味をくれる。
 当方のこんな些細な気分を、くわっと笑うような新書に出会った。
 足立倫行さんの『悪党の金言』(集英社新書・本体760円)だ。今年の一月号で、むろん、終わった『PLAYBOY日本版』の最もかっこええ線の「PLAYBOYインタビュー」の連載から”精選”した八人に聞いた話が記されている。本のタイトルは誰がつけたか、”悪党”とは秀逸である。八人の皆さんは、あらかじめタイトルを知ったら降りたのではないかともちらりと考えたが、そういや八人は太っ腹というか、そういう記号など快い屁の音鳴りとする人達ばかり。八人は、保阪正康氏、内田樹氏、佐藤優氏、森達也氏、島田裕巳氏、田中森一氏、溝口敦氏、重松清氏である。
 保阪正康氏が息子さんの自死の後にかみさんと「正解は出ない」話し合いをするところ、内田樹氏の「党派は?」への「秘密です」の答えの生唾を飲ませる箇処、佐藤優氏の「睡眠三時間半」や、宇野弘蔵の経済学の役割と意味を考えさせるところ、溝口敦氏の性を書く照れと生生しさの打ち明け話と、腫れものの頂点に触れる中身となっている。
 こういうことを引き出せた足立倫行さんの、事前の格闘、主役への深い畏怖と好奇心、聞き手としての冒険に、頭が臍まで垂れる。じわり、じわりと必ず売れていく新書である。








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