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評者◆内堀弘
詩人と古本屋――岩佐東一郎著『書痴半代記』(ウエッジ文庫)に登場する山王書房
No.2922 ・ 2009年06月20日




 某月某日。ウエッジ文庫から岩佐東一郎の『書痴半代記』が出た。岩佐も相当マイナーだが、この文庫の既刊ラインナップを見ると岩本素白、浅見淵、平山蘆江と、まるで古本文庫とでも呼びたくなるような渋さだ。
 岩佐は、大正時代に堀口大学門下の新鋭詩人として登場した。昭和に入ると文芸汎論社という個人出版社を起ちあげ、月刊『文芸汎論』は150号まで続く。本や雑誌を作るのが大好きで、元々は古本道楽、根っからの本好きだった。詩集も洒脱な随筆集も何冊か出していたが、戦後になると岩佐の名前は詩壇から消えてしまう。
 晩年の岩佐を知る老人が、「この本が文庫になって、岩佐さんが元気だったら喜びますよ」、しみじみとおっしゃった。戦後の岩佐は軟派随筆で稼いでいて、詩人としての仕事はほとんどなかった。あるときアンソロジイの詩集に岩佐の古い作品が何篇か収録されると、それをとても喜んだそうだ。
 岩佐が酒場でそんな話を嬉しそうにしていると、同席していた旧知の古本屋が「お前はそれでも詩人のつもりか!」と一喝して、大げんかになったという。この古本屋が文学書で知られた山王書房・関口良雄だった。
 関口はもう三十年も前に亡くなったが、いまだに語り継がれる稀有な古本屋だ。先日、『風狂の人・山王書房店主関口良雄』(萩原茂)という紀要の抜粋(といっても120頁もある一冊だ)をいただいた。ずっと昔に閉じてしまった古本屋がここに再現されているようだった。中に家族へのインタビューがある。店が苦しいときも、売れるからといって不本意なものは並べなかった。陽気な店主が保った小さな、でも懸命な意地を、家族は今も記憶していた。
 陽気な酒の関口が、それでも堪らず岩佐を一喝した理由がわかるような気がした。
 岩佐の『書痴半代記』には、山王書房が近所の馴染みの古本屋として何度も登場する。
(古書店主)







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