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評者◆前田和男
「よりまし政権」か「社会党の体質改善」か
No.2921 ・ 2009年06月13日




 これまで高木の証言によって、五五年体制を自民党とともに支えてきた社会党・総評ブロックからの政界再編・政権交代への動きをおってきたが、以上をもって筆をとめ、ここから「まとめ」にはいる。
 本稿の目的は、冒頭で記したように、今は亡き社会党と総評のために「鎮魂の歌」を奏でることにあるのではない。
 高木は、社会党と総評が政治再編・政権交代劇に関わるなかで、ある場面では理論武装家、ある場面では演出家、ある場面では脚本家の役をつとめ、高木自身の言葉によれば、「唯一、間違って成功したのは村山政権だが、それとても大局的にみれば大失敗で、それをふくめて成功したことは一つもなかった」。その高木が演じた「失敗の連続」を検証することによって、なぜ戦後日本ではかくも長い間政権交代が起きなかったのか、その理由を探り当て、来るべき政権交代のための貴重な糧とするのが本稿の最終目的である。
 まずは長い間政権交代が起きなかった理由を、これまでの高木の証言からさぐろう。社会党参加の政権づくりに向けた高木の三〇年にわたる仕掛けは二つに大別される。すなわち、
①社会党を中心にした「よりまし(連合)政権」をつくる
②社会党を政権担当可能な国民政党へ体質改善させる(階級政党・抵抗政党から社会民主主義政党へ)
である。
 ①の「よりまし政権」への仕掛けとしては、一九七四年七月の参院選による保革伯仲に乗じた参議院議長・河野謙三の「首相担ぎ出し」にはじまって、八〇年の公明党との連携合意(これで社会党はそれまでの単独政権論から連合政権論へと舵を切った)、九一年の日本初の「影の内閣」づくり、九二年の有力知事や市長を糾合して政権交代・政界再編の起爆剤にしようという「殿様連合」、九三年六月の非自民連立政権に向けた小沢新生党と社会党の水面下の政策協議などが上げられる。
 ②の「社会党の体質改善」への仕掛けで筆頭に上げられるのは、一九八六年「新宣言」の起草者の一人として、社会党を「マルクス・レーニン主義の党」から「西欧型社会民主主義の党」への脱皮・転換させる党内合意をとりつけたことである。また、九〇年の衆院選挙で当選した若手で結成された「ニューウエーブの会」を策源地として、「社会党の新人類によるペレストロイカ」を試みたことは、体質改善の具体化へむけた試みであった。
 しかしながら、①の「よりまし連合政権」と②の「社会党の体質改善」の関係は実に厄介で、ときに二律背反する。まさに高木の失敗の連続はほとんどそれに起因したといってもいいだろう。
 つまり②の「社会党の体質改善」なくして①の「よりまし連合政権」はないという路線をとるか。いやいや、そんなことを待っていたら政権交代は何年かかるかわからない。であれば、②の「体質改善」の努力はするが、とにかく①の「よりまし政権」を実現して、そのなかで②の「体質改善」をはかればよいという路線をとるか、の二者択一である。そして、高木のとったのは(より正確にいえば、党内事情からとらざるをえなかったのは)後者の「現実路線」だった。
 その結果はどうだったか。大いなる失敗で、やはり「社会党の体質改善」が先だったのである。結果からみれば、戦略や政策についての論議はあり、ときには党として決定しても、それは外向けの一時的なものに終わり、政権への準備は実質的には行われず、「野党第一党」のぬるま湯からは、党のそのものの解体なしには抜け出せなかったのである。
 それを逆説的に証明したのが、細川政権と自社さ村山政権だった。社会党はこの二つの「よりまし政権」に参加したものの、そこで「現実政治」に揉まれることで「体質改善」が図られることはなかった。高木がもくろんだようには、階級政党から国民政党へ体質改善を果たして、ついに政権交代の主役となった西ドイツ社民の道をとることはなかった。なかったどころか、自社さ政権に参加しているときは消費税アップと自衛隊合憲と安保「堅持」を容認したものの、政権離脱した後は、「消費税反対」「安保反対」の抵抗政党へと先祖返りしてしまったのである。
(文中敬称略)







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