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評者◆小嵐九八郎
闇を写した写真集――中里和人撮影『ULTRA』
No.2921 ・ 2009年06月13日




 闇サイトで知り合った三人が、通りがかりの女性を攫い、金ほしさにトンカチでめった打ちにしてから、絞殺した事件は闇そのものである。一人の殺人に対して二人に死刑判決が一審で出たが、この命の生き直しや生存を抹殺する死刑もまた闇。
 象徴としての闇ではなく、闇そのものについて書いた小説としては、京極夏彦さんの『嗤う伊右衛門』の初めのところが、戦後文学史上では最も光を放つ文であり、江戸時代の蚊帳の内外を通して闇の深さが分かり、凄い。もっとも、ここまでくると、というよりは文章というのは象徴性をそもそも持つもので、闇を書くというのは心情で闇を知ってなければできないことなのだろう。
 視覚に訴える絵画ではどうなのだろうか。闇的な心証をよこすのは、ゴッホの短銃自殺寸前のカラスが麦畑に舞う絵や、シベリアに抑留された香月泰男の一連の絵が思いつくけれど、闇そのものを描いたのは見たことがないような。
 映画やテレビでは、文字通りの闇を束の間映し出しても、光を与えるためのものだし、そもそも商売にならないから撮らないだろう。
 ところが、どっこい、本屋で、闇を写した写真集に出会い、仰天。『ULTRA』(ウルトラと読むはず。日本カメラ社刊)である。撮影者は、中里和人さん、ちいーっと高いが本体価格四八〇〇円である。
 千葉や青森や東京や新潟などの、道、海辺、鉄路、たぶん漁師小屋が、闇の中に、無気味に、そして健気に、暮れなずむ中に、夜のしじまに、容貌を主張しているのである。特に、青森の鰺ケ沢のテトラポッド群や、沖縄の夜の道を車が行く写真など、ごつーんと迫る。
 写真とは、要するに被写体の選択と切り取り方、そしてメカと現像能力と安易に考えていた当方は恥ずかしくなった。対象への好奇心、愛じみたもの、思想性が、撮る者に問われるのであった。同じ氏の『小屋の肖像』(メディアファクトリー刊)にも現代建築史の失われた記憶が詰まっていた。
(作家・歌人)







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