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評者◆たかとう匡子
詩は閉塞状況ではないとする前向きさ――(樋口伸子、吉貝甚蔵、脇川郁也〈鼎談〉「詩と誌と私と」『季刊午前』)緻密な文章にみる、書きたいという情熱(川口明子「はらから・愛と相克」『カプリチオ』)
No.2921 ・ 2009年06月13日




 「季刊午前」第40号(季刊午前同人会)は創刊40号特別記念号。いわゆる綜合誌で詩の専門誌ではないが、樋口伸子、吉貝甚蔵、脇川郁也の鼎談「詩と誌と私と」は、詩を中心の話になっていて、話題が九州に集まるのは仕方がないとして、詩が現在置かれている状況を具体的に語りながら、今詩はけっして閉塞状況ではないと結論するあたり、未来に一種の可能性を見出しているのがよい印象として残った。「閉塞状況という人は詩を読んでいない人が言っているんですよ。読まない人と話しても全然通じない」など、考えてみれば当たり前のことだけど、近年、詩は書くが人のは読まないというへんな傾向もつよまるなか、警告の意味も発しているといえよう。座談会自体も全体にやわらかで、前向きにプラス方向で考える発想も大事だと思う。方言詩についても話題になっているが、先般亡くなった古賀忠昭の詩なども九州の詩人だけにぜひ対象にしてほしかった。
 「文藝軌道」第10号(文藝軌道の会)登芳久「武田泰淳の暗然たる青春」は、作者が泰淳のいた浦和高等学校の同窓であったことから「暗然たる」思いで若いころの暗い青春を綴った伝記風の文章。作者にとっては遠い思い出のようなところもあろうが、私などが読むと人柄に通じるさまざまな側面が知らされて興味ぶかい。文字にすれば残るのだから、こんなふうに同時代で立ち会った人にはぜひいろいろ書いてもらいたい。
 「ムーンドロップ」第11号は今元気な河津聖恵、國重游らが書いている「左川ちか」特集号。私もちかを書いたあとなのでおおいに関心をそそられた。左川ちか訳のヴァージニア・ウルフ「憑かれた家」が再録されているが、これも私は見ていなかったから助かる。季村敏夫「戦前神戸のモダニズム詩人のこと」は神戸という地域に徹底してこだわり、細かい考証を得てこつこつと書いている、一級資料の価値があろう。
 「カプリチオ」第29号(二都文学の会)川口明子「はらから・愛と相克」は評伝小説。「はらから」とは神戸の詩人。ふたりともたまたま知っていて、私にとっては地元の知人の作品ということになる。私自身は評伝としてよりも川口明子の私小説として読んだ。作者は弟の妻という関係。貧困と病気(=癌)、アルコール依存症、そんななかで詩を書くとはどこかでよく聞く話のようだが、といってそうめったにあるものではない。文章は緻密で、ふたりの来歴についても丁寧だ。亡くなって十年、二十年が経って、作者の思いが深まったのだろう。書きたいという情熱がありありと感じとれた。小説を書く川口明子さんの、そういう生活のなかにいた川口明子が小説の中の虚構の人物としてもよく書けている。十分読めて感動した。
 「遠近」第36号(遠近の会)難波田節子「電話の主」は主人公と電話の主が交わすやりとりだけで、話題の焦点に肝心の主がなかなか出てこないで、家族や眷族、その背後関係をとおして生活まで引きずり出してくる手順が面白かった。このあいだの芥川賞の小説などは元気な同人雑誌の中に出てくる最もすぐれた作品という気がしないでもなかったが、電話の声だけで、だんだんその主をあかしていく推理小説風な献立は良質。こんな作品にもなにか勲章をあげたいと思った。
 「風」第11号(風同人会)濱崎彬子「戻らない日」は話としては古風で、ドラマがあるわけでもない。言って見ればオーソドックスな、さりげない書き方で、素材もとくに新しくはないけれども、私たちは生活しているなかに、だれもがほんとうはドラマを持っている。そこをそういえばこういうこともあるなあと読んでいるうちに思わせるあたり、よくある話をそれだけで終わらせないところに妙にリアリティを感じた。
 「葡萄」第56号は大岡信、杉山平一、岸田衿子、堀内幸枝の四人の詩人に「若き日の詩集」として、それぞれに小さい自註をつけてもらっており、意外に面白かった。「若き日」とあるから、戦争中、あるいは学生時代の作品。今は詩を書く人の年齢があがっているときだけに、結果的にはそのころからずっと詩を手放さず持続した詩人の、この年齢になっての若き日の詩の自註というのは、さすがに充実感がある。こんな特集もいいものだ。
 「秋楡」第44号(秋楡短歌会)大野かね子「十六首詠―変」のうちの二首。「田畑荒れ空腹の人毒入輸入品何処か不思議な飽食時代」、「師走空冷たき舗道に寝る人ら競ひてテレビは大きく映す」。よくわからないがこの誌、前田夕暮の流れを汲む短歌雑誌だろうか。口語短歌に近い手法で、詠嘆的なリズムを崩して、全体が名詞でたたみかけるような印象があり、私にとってはとても新鮮にうつった。短歌雑誌は結社で分厚いのが多いなかに、こんなぺらぺらなのはいいと率直に書き留めておこう。
(詩人)







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