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評者◆伊達政保
精神性など存在に比べたら大したことはない――ワーナー・ビショフ写『Japon』より~新しい日本と永遠なるもの1951―52年~
No.2921 ・ 2009年06月13日




 地下鉄の車内広告にあった、沿道に並ぶ子供達と若い女性の二つの写真が妙に気になった。それはまるで既視感の様なものだった。九段下にある昭和館で催されている「ワーナー・ビショフ写真展『Japon』より~新しい日本と永遠なるもの1951-52年~」の案内広告の写真だったので、すぐさま見に行くことにした。
 九段会館(旧軍人会館)と靖國神社の間に10年前に建てられた昭和館。その場所といい設立趣旨といい、何ともいかがわしさを感じざるを得ない建物なので、展示物に若干興味があっても、今まで訪れる気もなかった。オイラなら同じ昭和でも、ここを「二・二六事件資料館」にするのだが。いけねえ話が逸れた。
 ワーナー・ビショフ。スイスの写真家。終戦後、報道写真家としてヨーロッパの取材で称賛される。ロバート・キャパとも親交があり、写真家集団マグナム・フォトに入会。朝鮮戦争の取材を兼ねて来日した。昭和26年から27年に掛けて滞在し、多くの撮影や取材を行った。時間的には朝鮮戦争休戦からメーデー事件直前まで。日本での写真集を企画中に、1954年南米旅行で死去。死後、その写真集『Japon』が発刊された。
 今回はその写真集の作品と日本で撮影された未公開作品、そして取材レポートが日本語に翻訳されて初めて発表された。そこには占領下にあって、民主化され西欧化されたと言われる日本の実態を、深く冷静に見つめるカメラマンの視点があった。ただ、日本の精神性やオリエンタリズムに思い入れがあることも、レポートからは読み取れる。
 作品は大きく四つに分けられている。1.占領下の東京、2.ジェネレーションX、3.ヒロシマ、4.永遠なるもの 日本。1には洋装の男女が憩う皇居前広場(一年もたたないうちにその広場は血に染まる)の写真があるが、民主化と天皇制との壁についてもコメントしている。銀座の花売り娘や靴磨きとGI、日劇ストリップの楽屋、紙芝居を見る子供、傷痍軍人など、いかにもの題材だがその現実感には驚かされる。2はマグナムのプロジェクトのための作品で、京都の苦学生と東京の現代の若い女性を取り上げている。男性の政治性と革命的理念、女性の「アメリカ化」と伝統的精神姿勢を題材としているが、58年後の今日、そうした理念も姿勢も喪失したと知ったら作者はどう思うだろう。しかし「町に出たミチコ」と題された作品の、洋装でキリッとメイクした女性の存在感こそ、理念や姿勢などという思い込みを超えて革命的である。
 初めに感じた既視感はオイラ物心ついた時に見たこうした風景や人物だったのだ。精神性など存在感に比べたら大したことはない。
(評論家)







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