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評者◆秋竜山
男女では笑いも違うのだ、の巻
No.2919 ・ 2009年05月30日




 私はオバサンにはなりたいとは思わないが、オバサンはすごいと思う。そして、養老孟司・テリー伊藤『私はオバサンになりたい!』(宝島社、本体457円)を読む。
 〈養老――そうそう。目の前の日常の具体的な喜びを精一杯に楽しめる。男は抽象的なんだ。
テリー――たしかに男は抽象的ですよね。何を目指しているのか、何を喜びにしたいのか。よくわかんないもんなぁ。「自分の価値は…」とかって言ったって、そんなの、いつまで追いかけたって答えなんかないもんね。
養老――僕の先輩が名セリフを言ったんだよ。「男は現象だが、女は実体だ」って。男と女の違いは、それに尽きる。
テリー――そうか。オバサンは実体なんだ。これ以上、強い者は他にないですね。サムライ道なんか求めてもしょうがないな、こりゃ。サムライなんて、まさに現象に過ぎないんだから、実体にはかないっこないもん。これからは「オバサン道」だよ。
養老――うん。きちんと作れば、意外にいい「道」になると思うよ。世界のモデルになるんじゃない?
テリー――なりますね。〉(本書より)
 本書を読んでいると、男のサムライが実につまらないものにみえてくる。男っていかにくだらない。なぜって、サムライなんていっている自分達の姿がいかにくだらないものであるかわからないということだ。武士道などを読むと、「やっぱり男はこーでなくては」なんて、思わせてしまう。あの精神こそ男の道そのもののような気がして感動すらしたものだ。しかし、本書を読むと、そんな気合いもとたんにくずれてしまう。武士道なんて、つまらんものだ!!なんて。これからは、「オバサン道」でいかなくてはいけない!!なんて。えいきょうされやすい人間なんだ私は。
 〈テリー――綾小路きみまろの漫談聞いて大笑いしてるオバサンたちって、みんな本当に幸せそうだもんな。〉(本書より)
 オバサンの笑い声を発見したのは、あの漫談による綾小路きみまろではなかろうか。オバサン達のあの活力のある生命力というべきか、そんな笑いがあったのか、もしかすると一番驚いたのはオジサン達ではなかろうか。「いい加減にしろ!!」なんて、今の日本のオジサン達にはオバサン達をたしなめる力はないようだ。それよりもオバサン達の馬鹿笑いにつられるようにヘラヘラ笑っているのがサムライであった武士道精神を持ったかつての男たち、すなわち現代のオジサン達の姿である。なんて考えてしまう。そして、オジサンはオジサンであって、オバサンではない、ということだ。ためしに、オバサン達にまじって、一緒になって大笑いをしたとしても、どこかで同化できないものがある。オバサンになりきれない笑い声である。これを、男の「現象的笑い」というのだろうか。女は「実体的笑い」というのか。女のあの大笑いは、たしかに発見である。それも大勢で笑う笑い顔だ。
 〈テリー――(略)それよりはオバサン道のほうがいいよね。等身大の自分を全肯定してハッピーに生きていくっていうかさあ。
養老――そうそう。目の前の日常の具体的な喜びを精一杯に楽しめる。(略)〉(本書より)
 オジサン道の早期成立を急ぐなどと思ってしまう。そんな気にさせてしまう本であった。







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