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評者◆前田和男
党内対立で塩漬けされた新党構想
No.2919 ・ 2009年05月30日




●党内対立で塩漬けされた新党構想

 タナボタで党首を政権トップに据えてもらった社会党にとって、政権運営につぐ重要課題は「新党問題」だった。そもそも社会党中心の「新党づくり」は、一九八〇年代後半に社会党系の総評と民社党系の同盟との間で労働戦線統一が現実的日程にのぼって以来の懸案事項ではあったが、不毛な党内対立に十年近くをついやし、一九九三年に自民党から「脱藩」した小沢一郎の新生党、同じく武村正義のさきがけ、細川護煕の日本新党など「後発組」に出し抜かれていた。
 「社会党発の新党」がようやく現実味を帯びるのは、皮肉にも後発新党たちの主導でつくられた細川政権に社会党も参加するものの、新生党・小沢一郎と公明党・市川雄一の「一一ライン」から「仲間はずれ」にされたことによる。その背景には、新生、公明、日本新党、民社による大合併で、相対的多数派の社会党の影響力を低下させ、あわせて反小沢の武村さきがけを封じ込める狙いがあるとされたが、それが実現すると保守二大政党制になり、社会党とさきがけは埋没してしまう。それはなんとか避けたいとの思惑から、さきがけと社会党の一部勢力の間で生まれたのが、保守二大政党制にリベラル勢力が割って入る「第三極構想」だった。社会党サイドからは「社民リベラル新党構想」とも呼ばれた。
 社会党の政策ブレーンの一人としてこれにかかわった高木は、この考え方を雑誌『論座』で整理している。その内容は、対外路線として「強い国家」かどうかという国家軸、「市場万能」かどうかという経済軸の二つで4象限を考えると、古い自民党は明らかに分解しつつある。このうち「強い国家+市場万能」に近い考え方が、在来の自民党を揺さぶっている。したがって対外的には「国連中心主義」、対内的には「市場の暴力を抑えること」を軸として第三の極をつくり、旧自民党勢力の分解傾向のなかで、リーダーシップをとれるようにすべきだ、というものだった。これは社民リベラル路線の基本理念を示すものだったといえる。
 村山富市が総理大臣の栄光の座にあった九四年末、旧羽田政権残留グループは新進党を結成。その動きに触発され、社会党でも、遅まきながら、都道府県本部代表者会議で、党の再生をめざして「民主主義・リベラル新党」の推進が打ち出される。高木を含め、党内外の知識人や全電通など労組の一部も呼応し、さらには財界人や旧官僚の一部も参加して、準備会的な会合も何度も開かれた。田辺誠元委員長もこれに期待し、裏からこれを支えた。首相在任中の村山に直接会って、社会党が死んで生きるという戦略をもって「社民リベラル新党」の起爆剤になることを一度ならず三度も四度も進言したが、「党の分裂は避けるべき」との建前から受け入れてもらえなかったという。一方、新党構想に中心的な役割を果すものと期待されていた久保旦書記長は大蔵大臣になってその役割を果さず、新党派とみられた党幹部も、村山内閣を支えることに重点をおいたため、準備会合も結局は小田原評定に終わってしまった。
 これに業を煮やした前委員長の山花貞夫らは、二十四人の「同志」を引き連れて先行脱党を試みるが、折から発生した阪神淡路大震災で、頓挫。またしても新党運動は塩漬けにされる。高木は山花らの行動が起爆剤になる可能性は認めつつも、政局論議が先行して充分な戦略論議が欠如していること、先行組とホンネでは新党を求めている中央・地方の声と溝ができていることを危惧して直接のかかわりをもたなかった。

●村山首相の寝耳に水の辞任

 明けて一九九六年一月五日、村山は突然、首相辞任を発表。国民を驚かせたが、高木にとってもこれは寝耳に水だった。前日の四日に伊勢神宮に詣でたのち「元旦の晴れた空を見て」決めたというせりふに唖然とするとともに、社会党の党首が伊勢神宮を参拝したことにも大いなる違和感を覚えた。
 ちなみに村山自身は、回顧録『そうじゃのう』(第三書館、一九九八年)で、突然の辞任について、前年の暮れに自分で判断をしたと述べ、その理由を二つ上げている。

 「(株価が願っていたとおり)二万円台に上がった。ああ、これでやっと展望が開けたと。ここで人心を一新したほうがいいというのが一つだな。それから、これからの課題を考えた場合に、もっと規制緩和も厳しくやらなきゃいかんし、いろいろな改革もやらなきゃいかんし、そういう大きな課題を担っていくためには、よほど政治基盤ががっちりしてないと、とてもじゃないが無理だ。もうおれの能力以上だ。だからこれはやめるべきだ」

 今読み返してみると、株価への配慮といい規制緩和への評価といい、後の「竹中・小泉構造改革路線」の先触れとも読め、これが社会党党首の言説か――それも首相を辞任するという政治家にとって一世一代のときに吐く言説かと愕然とさせられる。高木の驚愕と失望は深かった。
(文中敬称略)







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