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評者◆編集部
強情っぱりが開いた不思議な物語
あの庭の扉をあけたとき
佐野洋子
楷成社
No.2918 ・ 2009年05月23日




 五歳の「わたし」と、七〇歳の「おばあさん」との、不思議なものがたりがはじまります。ふたりは強情という点で、似たものどうしだということが、やがてわかります。偶然のつながりが、おばあさんの過去につうじる扉をひらいたのです。
 きっかけは、わたしがお父さんと散歩に行ったとき。電車通りをこえて、坂道をのぼっていくと、一軒の家がありました。その家の垣根には、まっしろなバラの花がたくさん咲いています。そのときのおばあさんは、こわくてとっつきにくい感じでした。
 でも、庭の花がとてもきれいで、わたしはもういちど、おばあさんの家にいったんです。おばあさんも、私のことが気になったのかもしれません。
 そんなあるとき、わたしはジフテリアにかかってしまいました。病院にいなければならなくなったんです。わたしはお父さんに、いつも「ねしょんべんをしてはいけない」といわれてきたんだけれども、病院ではねしょんべんできないから、夜にみんなが寝しずまったとき、どうしてもトイレに行きたくなって、ひとりでトイレに行きました。
 そうしたら、見知らぬ女の子と出くわしました。女の子はわたしより、すこし年上。どこかでみたことがあるような、ないような。その子はわたしを、知らない部屋へといざないました。扉をあけると、この部屋はどこかで見たことがあるような気がしました。
 部屋には、男の子がいました。男の子はとても強情。女の子は、じぶんといっしょだといいます。でも、わたしは強情じゃない。女の子にそういったら、強情じゃない人はつまらない、といわれました。そしてふっと、この男の子と女の子は、おとなになったら結婚するんだなと、ぼんやり思ったんです。
 ああ、この女の子は、お花のきれいな家のおばあさんだ! 「わたし知ってるわ。あなたがだれか」。そういうと、女の子の声は、きゅうにあのおばあさんの声になりました。「そうだよ。あんたのいうとおりだよ」って。
 その女の子は、わたしにレコードを聴かせてくれました。とても古いレコードでした。その音楽に、女の子はぼろぼろ泣きました。そして、あの男の子は死んだの、と教えてくれました。
 帰りたくなったわたしは、いつのまにか、おばあさんに病院へ連れて帰ってもらいました。「あんたを見ていると、自分が小さい女の子だったときのことを思い出すんだよ」。おばあさんはそういいました。
 でもそれいらい、私は何年も、おばあさんとは会わなかったんです。お父さんにいわれても、こわくなったから、もう行かないといいつづけてきました。お父さんは、強情だなといいました。そのとき、わたしは、おばあさんが強情だっていってたのを思い出しました。ああ、そして、強情だから、ずっとお花をそだてつづけてきたということも。
 それが、中学生になって、わたしはおばあさんに会おうと思いました。きゅうに、おばあさんがいっていたことが、わかる気がしたんです。あの夜の、ふしぎな経験のことも。そう、女の子と男の子の、ひそやかな歴史を目にしたことを思い出したんです。
 すべての強情っぱりたちへ――。そんなすてきなものがたりが、扉を開きます。







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