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評者◆前田和男
国民福祉税と細川政権の挫折
No.2917 ・ 2009年05月09日




 国民の七割以上の熱狂的支持を得た細川政権だが、唐突な「国民福祉税」の提案と翌朝の撤回、そして佐川急便からの借金疑惑であっさり自壊する。細川政権が大きな可能性を秘めながらわずか八ヶ月の短命内閣で終わった責任の一端は、社会党にもあると高木はいう。
 そもそも国民福祉税とは、福祉の充実を目的に現行の三%の消費税を七%に上げてそれにあてるという施策で、一九九四年二月三日未明、細川首相の突然の会見で発表された。これに対して、社会党は、「内容」よりも「手続き」を問題にした。すなわち「密室で決めたからけしからん。過ちは改むるにしかず」と殿・細川に言い寄った官房長官の武村正義に条件反射的に乗ってしまったことを、高木は問題にする。
 当時、国民福祉税は細川首相一流のパフォーマンスから突然出されたものだとさかんに報じられ、国民の大多数もそう信じこまされたが、それは事実に反する。また、「消費税反対」を「党是」とする社会党はそれにブレーキをかけることで面目をほどこしたとも書かれたが、これもまた正確ではない。
 前述したように、高木には「国のありかた」についてかねてから持論があった。バブル崩壊後の日本は、もはや右肩上がりの成長モデルではやっていけない。このままでは財政が硬直化して、福祉は切り捨てられる。その苦境を突破するには西欧社会民主主義諸国の「高福祉高負担社会」モデルを手本とするしかない。そのためには消費税は避けては通れない。そして、細川政権成立を前に、水面下で、田辺誠前委員長の意を体した高木ら社会党の政策マンと小沢の意をうけた平野貞夫ら新生党の政策ブレーンとの間で、「焦眉の課題である福祉充実の財源確保のためには消費税は不可欠」で政策合意を得ていた。この合意は、もちろん平野の後ろにいる小沢も共有していた。これが細川の国民福祉税の背景にはあり、したがって高木にとって、発表の仕方は唐突かもしれないが、内容は唐突ではなかった。ところが高木の後ろにいるはずの社会党中枢は合意を必ずしも共有していなかった。ここに悲劇の原因があった。
 社会党のトップは山花貞夫から村山富市に代わっていた。高木は新委員長の村山を説得にかかるが、土井委員長のときと同様消費税は受け入れてもらえなかった(村山は後に総理大臣になって受け入れることになるが、それについては後述する)。そんななかで国民福祉税が出されたため、村山は武村の「手続き論による反対」に乗って、国民福祉税をつぶしただけでなく、細川内閣までもつぶしてしまった。PKOのときと同じで、またまた条件反射的に蚊帳の外に飛び出てしまった、と高木は悔やむ。小沢新生党と「高福祉高負担路線」で了解できたことで、持論の「よりまし政権」に本格的な魂を入れられると思っていた矢先だけに、高木としてはいまもなお残念でならない。

●統一会派問題で社会党は連立離脱

 それでも高木は、社会党の政策的イニシアチブをポスト細川政権に引き継げると思っていた。細川の後継首相を羽田孜とすることで、それに向けて、またまた高木は、非公式なかたちで、社会党の政策窓口として、非自民連立の一方の多数派である新生党側と政策協議にはいる。相手は引き続き旧知の平野貞夫だった。両者は平野の事務所で大いに議論し課題をつめた。
 当時、社会党と新生党の間で、すりあわせなければならない政策的課題が二つあった。一つは北朝鮮問題だった。この時期、現在の北朝鮮問題の淵源ともいえる核開発疑惑が明るみに出て、隣国日本でも「日本海有事」の議論が沸騰、新生党の小沢一郎は「北朝鮮は断固経済制裁すべし」の北風強硬路線を唱えていた。いっぽう社会党は北朝鮮との友好関係もあり、太陽路線勢力が党内では優勢であった。そこで高木は、「国連重視」という小沢の持論に着目、「日本独自の経済制裁ではなくて、国連の決議をもとに対処する」を着地点として提起、それなら社会党内反対派も抑えられるということで大枠の合意をみた。
 もう一つは懸案の福祉充実のための消費税増の問題だった。高木は社会党中枢の説得を引き受け、今度こそまとまりかけた。そこへ、とんでもない事件がおきる。「統一会派問題」である。細川連立政権を支える有力五党のうち、小沢一郎の新生党、細川護煕の日本新党、大内啓伍の民社党が、社会党に相談もなく統一会派「改新」をつくったのである。「改新」は合計議員数で、それまで相対的多数であった社会党を上回ることになり、これは社会党からすると、社会党の影響力を抑え込もうとする策動にほかならない。
 これを仕掛けたのは、小沢一郎と公明党の市川雄一の一をとって「一一ライン」といわれたが、水面下で小沢の腹心である平野と連立の安定強化にむけてすりあわせていた高木にはまさに寝耳に水だった。脚本家が脚本を反故にされたようなもので、なす術はなかった。
 「仲間はずれ」にされたと反発する社会党は連立から離脱、これにかねてから一一コンビに代表の武村がないがしろにされて腹に据えかねていたさきがけも歩調を合わせる形で政権離脱。羽田政権は少数与党の船出となり、これが策源地となって、ほとんどの国民が予想だにつかない政変がおこる。
(文中敬称略)








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