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評者◆伊達政保
グローバル資本主義に対する闘争の象徴として、ゲバラが復活する――スティーヴン・ソダーバーグ監督、ベニチオ・デル・トロ主演『チェ 28歳の革命』『チェ 38歳別れの手紙』
No.2914 ・ 2009年04月18日




 あのチェ・ゲバラの映画が立て続けに公開された。スティーヴン・ソダーバーグ監督、ベニチオ・デル・トロ主演『チェ 28歳の革命』『チェ 38歳別れの手紙』である。もともとは『チェ』と題された映画のパート1、パート2であり、前者はカストロ達とグランマ号での上陸からキューバ革命の勝利まで、後者はボリビア潜入からゲリラ戦の末、追い詰められ処刑されるまでを描いている。
 映画を見た後、40年振りに『革命の回想』や『ゲバラ日記』等を引っ張りだし読み返してみた。事実に即して忠実に映画化したことが良く分かる。ただパート1では、ソヴィエト連邦が解体し冷戦構造が消滅した現在において、当時キューバ革命のおかれた状況を説明するために、64年のテレビ・インタビューや国連総会でのゲバラの演説のシーンを再現し、モノクロの画面でモンタージュするという手法を取っている。しかし、それらのシーンを当時の実写だと思い込んでいる人も結構いるようだから、時の流れは恐ろしい。パート2は昔『ゲバラ日記』を読んだ時もそうだったが、結末が分かっているので悲壮感に囚われてしまう。ソダーバーグ監督もそうした感情と無縁ではいられなかったようだ。ゲバラ自身は2日後に殺されるなどとは思っておらず、日記はそこで途絶しただけなのに。
 ゲバラの死から40年、生誕から80年、そして今年キューバ革命から50年、そういう中でこの映画が制作され公開された。今でも「革命のイコン」として、あの有名な写真と共に死しても運動の中に掲げ続けられているゲバラ。一方、ゲバラをあげつらい、釈迦の掌を飛び出した正義感あふれる過激派の末路とか、ご都合主義的に、資本主義でもなく社会主義でもない第三の道を理想とした、ケネディとゲバラの共通点などという論調まで現れる始末だ。
 オイラ今回ゲバラを読み返してみて、彼はあらゆる国家、経済、社会のシステムに対し、一つのことを主張し続けたということに気が付いた。「人間が人間を搾取するシステムの解体」である。社会主義体制が崩壊し共産主義が終焉を迎えたとして、ポストモダンの「大きな物語」から「小さな物語」へ、という概念が一世を風靡し、あたかも帝国主義や大資本という存在を見ないふりをするかの様な風潮が煽られていった。しかし、今回の世界経済危機で明らかになったのは、帝国主義も資本主義も「大きな物語」の中にしっかりと存在し、人民や労働者を搾取し続けてきたという事実である。まさにマルクスの「賃労働と資本」の厳然たる世界がそこにあったのだ。グローバル資本主義に対する闘争の象徴として、ゲバラが復活するわけだ。







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