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評者◆前田和男
地方から中央へ攻め上れ!殿様連合構想
No.2913 ・ 2009年04月11日




 これまで記してきたように、高木は、持論の「よりまし連合政府」をこれでもかこれでもかと仕掛けたものの、そのほとんどが「笛吹けど踊らず」だった。しかし、九〇年代に入ると、にわかに連合政権が現実味をおびてくる。それは残念ながら、高木がよりどころとしてきた「総評・社会党ブロック」による主体的な働きかけではなく、「敵陣営」である自民党の内部矛盾によるものだった。すなわち、リクルート事件、佐川急便事件などで自民のキングメーカーであった竹下派に分裂がおきる。それを震源地として、細川護煕の日本新党(九二年)、武村正義のさきがけ(九三年六月)、そして小沢一郎・羽田孜らの新生党(九三年六月)が生まれる。
 この「敵失」に乗じて、高木は仕掛けを試みる。しかし、今回仕掛けた先は社会党ではなかった。これまでの「失敗」と「挫折」の連続から、社会党はもはや仕掛けの装置とはならないと踏んだからだ。さらに、この時点では、労働戦線統一の結果として連合が発足していたという事情も、社会党中心ではうまくいかない、広い意味での社会民主主義的なもののリーダーシップが必要だという思いが高木にはあった。そこで高木が試みたもの、それは「殿様連合」である。
 殿様連合とは、発信力のある地方の有力知事や市長たちを糾合、選挙制度改革(小選挙区と比例の配分を中心にした)で調整がつかずに動きがとれないでいる「永田町」に対して、地方から運動を起こして、政権交代・政界再編の起爆剤にしようというものだ。「一国一城の主」である藩主に首長をなぞらえて、「殿様」と呼ばれた。これは先に述べた「土井たか子都知事選擁立工作」とつながる「地方から中央を動かす」作戦だった。
 高木が「仕掛人の顔」に立てたのは、親交もあり、連合政権論者でも知られる初代連合会長の山岸章だった。この構想に向けノミネートされた殿様は、横路孝弘北海道知事(五一歳)、平松守彦大分県知事(六八歳)、恒松制治島根県知事(六九歳)、長洲一二神奈川県知事(七三歳)、本間俊太郎宮城県知事(五二歳)、細川前熊本県知事(五四歳)、武村正義前滋賀県知事(五八歳)(肩書き・年齢はいずれも一九九二年一月当時)。この七人の現職・元職知事に山岸が決起を促す親書を送る。これをうけて七人が共同提言を発表。その直後に、労働組合や市民団体が応援団をつくり、国民運動に発展させようという趣向だ。
 これだけの大掛かりな構想を実現するにはコーディネート能力にたけた「事務局」が必要となるが、高木は学生時代からの旧知の仲間数人に声をかけ馳せ参じてもらった。その一人が水戸市長の佐川一信(当時五二歳)だ。高木は東大、佐川は中央大学から早稲田大学院とキャンパスの違いはあったが、六〇年安保三池を前後する時代に学生運動で同じ釜の飯を食った仲間だった。
 佐川は一九七八年、保守の牙城である水戸市長に三八歳の若さで「市民派」を掲げて挑戦、落選するも次回八四年に当選、当時三選されたばかりだった。その間に、演出家の鈴木忠志などをアドバイザーにした芸術による町おこし、市民懇話会による市民主役の政治などに取り組み、全国的にも知られた存在だった。
 なぜ、政権交代に殿様連合が有効なのか? 佐川は当時「アエラ」(一九九三年九月二一日号)のインタビューにこう応えている。

 「首長経験者は、地方政府でガバナビリティーを学んでいるから、党人派政治家のように官僚に牛耳られることもない」。

 これは高木の持論の「地方から中央へ」と共振するものだった。まさに「雄藩の殿様」をオルグしてまわるにはうってつけの人物だった。

●連合会長の親書で殿様に決起を促す

 さて、この「殿様連合」構想は連合会長山岸章を「総監督」として、企画は高木以下佐川ら五人ほどで練り上げられ、最終決定会議には、山岸と山岸の出身単産である全電通の委員長・副委員長・政治部長が出席。殿様への山岸の親書は、高木が試案を作成、事務局でもんだものを山岸に了解をとり、山岸の自筆の署名をいれて、「殿様」たちへと送られた。現物の控え?を当時の関係者から入手できたので、往時の雰囲気をつたえるために、いささか長くなるが、要約はぜず、以下に掲げる。
(文中敬称略)







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