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評者◆秋竜山
読者よ、自覚せよ、の巻
No.2910 ・ 2009年03月21日




 ひろさちや『「狂い」のすすめ』(集英社新書、本体680円)では、室町後期に編纂された歌謡集(編集は未詳)、『閑吟集』から《何せうぞ くすんで 一期は夢よただ狂へ》を引用している。
 〈何になろうか、まじめくさって、人間の一生なんて夢でしかない。ひたすら遊び狂え――といった意味でしょう。“くすむ”とはまじめくさることです。しかしね、誤解しないでくださいよ。「ただ狂え」「ひたすら遊び狂え」と歌われていますが、だからといって室町時代の彼らが遊び狂っていたわけではありません。悲しいことに、現実には彼らは牛馬のごとく働かざるを得ないのです。室町時代にかぎらず、いつの時代でも、庶民はあくせく働くよりほかありません。その現実の苦悩の中で、だからこそ庶民は、《一期は夢よ ただ狂へ》と歌ったのです。〉(本書より)
 簡単に狂えるものではない。生きている内は。死んでみて、はじめて、「アア……生きている時、狂えばよかったのになァ……」なんて残念がったりするものかもしれない。本書の項目の中に、〈流行に乗っかる〉というのがある。
 〈ドイツの哲学者のカント(一七二四-一八〇四)がおもしろいことを言っています。《流行遅れの馬鹿になるより、流行を追う馬鹿になったほうがよい》カントはなかなかのおしゃれであったようです。そして彼は、流行に忠実でありました。〉(本書より)
 うん!! この一言は使えそうだ。おぼえておいて、何かの時に「ドイツの哲学者のカントいわく……」なんていったら、受けそーだ。流行というものは常に新しいのと古いのがあるから、いつでもこの一言は効く。
 〈そもそも「流行」というものが、ちょっと厄介なものなんです。あの「悪魔の辞典」で有名な、アメリカの小説家のアンブローズ・ビアス(一八四二-一九一四?)は「流行」についてこう定義しています。《流行(fashion n.)賢者が、嘲笑しながらも、その命に従う暴君》(西川正身訳、岩波文庫)たしかに流行は暴君ですね。わたしたちは流行に楯突くと馬鹿にされます〉(本書より)
 流行の服を着て、流行の食事をして、というように、すべて流行にのっかって生きていく。流行というものは、のりおくれると大変なことになってしまう。「ただ狂え」とは、〈狂者の自覚〉をもって生きろ!! という。自覚のない狂者とはおそろしい。〈希望を持つな!〉という項目では、
 〈仏教の場合は、釈迦の言葉があります。《過去を追うな。未来を願うな。過去はすでに捨てられた。未来はまだやって来ない。だから現在のことがらを、現在においてよく観察し、揺ぐことなく動ずることなく、よく見きわめて実践すべし。ただ今日なすべきことを熱心になせ。誰か明日の死のあらんことを知らん》(「マツジマ・ニカーヤ」)これは「一夜賢者経」という経典に出てくる言葉です。〉(本書より)
 なるほど!! そーいうことなのか。「ただ今日読む本を熱心に読め」ということなのか。本というものは毎日すこしでも読むと大長編物も読んでしまうことになる。つまり「読者の自覚」をもつべきだろう。







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