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評者◆添田馨
文学的事件としか呼びようのないもの――長編詩「約束の場所」との出会い
No.2910 ・ 2009年03月21日




 文学的な事件というものは、人知れず、しかし世界の片隅で確実に生起するものだということを、最近、思いもかけず体感する機会に恵まれた。詩人の広瀬大志さんが贈ってくれた「約束の場所」という長編詩と出会った時のことだ。でも、こうした感動を共有できる場がきわめて限られているのも、残念ながら事実なのだ。
 最初、私はそれを詩集だと思った。B4横開きの冊子のかたちに製本されていたからである。表紙には、どこか地方の町と思しきモノクロの風景写真がプリントされていて、他にはタイトルと作者名があるだけで、版元も頒価もなにも記載がない。ということは、これは書籍つまり商品ではない。冊子ではあるが、本でもない。また編集物ではあるが、ただの印刷物以上の何ものかである。だがもう一度言おう。これは紛れもなく、ひとつの文学的事件としか呼びようがないものなのだ。「彼女にはいま胎児が彼女の中からでていこうとするのがわかった。『私』以外の言葉が、詩である。」――全編行間も含めれば二千行を越えるこれらの詩行は、巧みな構成と不思議な表現とに満ちていて圧巻と呼ぶに相応しい。作者がこれまで鍛錬を積んだ作詩法が、恐らくここには総動員されている。この壮観なドラマを演じ切るのが選び抜かれた言葉たちで、彼等はそれぞれ意味や音韻は元より、視覚に訴えるタイポグラフィへと変幻する。
 実は表紙のモノクロ写真は、作者の生まれ故郷の町らしいことが本文中で暗示され、作品のモチーフは言葉という「約束の場所」へ「私」の不在が渦を巻いていくような、そんな印象を強く与えるものだ。近年、まれに見る秀作である。こういう稀有な作品は長すぎるということもあって、このように冊子形式に編集されなければ、発表される場所とてなかっただろう。このスタイルは、いわばこの作品固有のそうした特性が必然的に選び取ったものに違いないが、一般の読者の目に触れる機会はほとんどないだろうから、ここであえて言及させてもらった。限定七九部というのも、なんと泣かせる部数であることか。       







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