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評者◆伊達政保
東条英機に開戦決定の責任はなかった――TBS番組「シリーズ激動の昭和」第2弾『あの戦争は何だったのか・日米開戦と東条英機』
No.2909 ・ 2009年03月14日




 なにもクリスマスイブの夜に放映することはなかったろうに、だれもテレビなんて見てないじゃないかと思ったのだが、その日の放映には理由があったのだ。TBSが「シリーズ激動の昭和」として企画した番組の第2弾、『あの戦争は何だったのか・日米開戦と東条英機』である。前半はドキュメンタリー、後半はドラマという構成であった。
 ドキュメンタリーは、日米開戦までの時代背景や日本の国内状況、そして開戦前首相であった近衛文麿、開戦時の首相東条英機などの人物を、子孫や近親者の証言を交えて丹念に追っている。なるほど60年前の今日が、東京裁判で死刑となった東条英機の葬儀の日だったのか。またアメリカ側の暗号解読について、研究過程やその施設跡、任務に就いていた人々の証言、公文書館に残る解読文書などにより、開戦時、日本側の外交、軍事情報は全て知られていた事を明らかにしている。しかし、戦争を知らない世代にも理解させようとする意図からか、冗長な映像とナレーションによるワンパターンのドキュメンタリー手法は、40年前に同じTBSが作り出した革新的TVドキュメンタリー手法からの、何倍もの後退であるとしか思えなかった。
 それは40年ぶりに復刊された『お前はただの現在にすぎない・テレビに何が可能か』萩本晴彦・村木良彦・今野勉著(朝日文庫)を40年ぶりに再読した後だったからかもしれない。この本は昭和43年、番組内容の偏向を理由とする萩本・村木氏の配置転換から始まった「TBS闘争」のドキュメントであり、今なお新鮮な当時のテレビメディア論でもあり、激動の昭和43年(1968年)の第一級のドキュメントともなっている。
 さて後半のドラマだ。かつて今野勉等の演出によって「ドラマのTBS」と謳われた片鱗は、役者の演技によって辛うじて窺える。戦後、大東亜戦争のオピニオンリーダーだった徳富蘇峰(西田敏行)の回想という形で、東条英機(ビートたけし)への首相大命降下から開戦決定にいたるまでの経過を、天皇、側近、軍人、官僚の権益の駆け引きとして描き出している。だれもがその結果がどうなるかを考えようともしない。保阪正康の著書がテキストのため、立憲君主制の下、内閣の輔弼を受ける国家元首としての天皇と、大元帥として統帥部(陸軍参謀本部、海軍軍令部)を統括する軍の最高司令官としての天皇という、二系統の天皇が併存する事になってしまう。首相兼陸軍大臣である東条も、統帥権には口を挟む事は出来ない。オイラ穿った見方をすれば、東条英機に開戦内閣の首相として戦争責任はあるが、開戦決定の責任は無かったというのがこのドラマである。







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