書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆内堀弘
福次郎さんのゲスナー賞――八木福次郎著『新編 古本屋の手帖』(本体一五〇〇円・平凡社ライブラリー)
No.2908 ・ 2009年03月07日




某月某日。日本古書通信の八木福次さんがゲスナー賞を受賞した。これは、書物に関する本に与えられる賞で、となればこの人ほどふさわしい受賞者はいない。
 福次郎さん(知る人は敬愛を込めてこう呼ぶのだが)は今年九十四歳。日本古書通信の仕事は昭和十一年からで、今も現役編集者だ。
 エッセイストの坂崎重盛さんの命名に「よみごろ本」というのがある。古書展で古本を見ていると昭和四、三、五、六年に出た本は、タイトルにしても装丁にしても、とにかく面白いものが多いというのだ。本の世界に沸き立つような地熱があった時代だ。
 書物展望社の斎藤昌三は、馥郁としたその地熱を象徴するような存在だった。書物誌を出し、奇抜な装丁の書物を作り、スタール、三田平凡寺、宮武外骨といった魅力的な通人と繋がる。といってもマニアックな世界ではない。書物というものの面白がり方がとことん上手なのだ。そんな人たちがかつていたこと、その豊かな精神を古本の世界はずっと大切に記憶してきた。
 戦後生まれの私には、そんな時代も伝説上の話だった。ところが、福次郎さんの『新編 古本屋の手帖』(08年・平凡社)を読むと、斎藤昌三を初めて訪ねたのは昭和十年とあって、新富町の書物展望社は畳敷きの一室だったと、そんな生な回想が登場する。リアルタイムなのだ。あの時代の、あの豊かさを経験してきた人が、九十歳を過ぎても猶、古本の世界にはいる。そのことが、私には誇らしいことに思えてならない。
 二月に入って神保町の一角で受賞の祝賀会がもたれた。九十四歳の受賞者に、九十三歳の現役古書店主が祝辞に立つ凄い会だった。なるほど、ここでは還暦前は洟垂れ小僧なのだ。途中、余興のくじ引きがあり、一等の賞品は福次郎さんの色紙だった。「色紙を書くなど、実は初めてのことでした」。白髪の福次郎さんが照れくさそうに挨拶をすると、「それゃ高くなるぞ」、誰かが声をはさんだ。会場はどっと沸いた。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約