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評者◆小嵐九八郎
短歌界の巨人が出した評論はすごい――岡井隆著『歌集「ともしび」とその背景』『鴎外・茂吉・杢太郎』を読む
No.2907 ・ 2009年02月28日




 前回は言いわけばかりだったが、今回も、ほぼ八十歳にして、一年半で立て続けに評論集、詩集(歌集ではない)、歌集を出した岡井隆氏について書く。エンターティナーの当方は可能な限り分かり易く記そうとするので、〝素人〝の人を含め前置きをすると、譬喩と一人称廃絶で短歌の革命をなした亡き塚本邦雄をトロツキーとすれば、スターリンみたいな短歌界の巨人である――という話を御本人の前で二十年前に直に話したら「どちらがスターリンかね」と聞き返されたことがある。スターリンほど評判の悪い革命家もいないが、決して甘くはない。革命以前は資金稼ぎで銀行強盗を敢然とやったこともあるし、ある意味では全てのコミュニズムの〝必然〝と〝未来〝を体現した人物である。因みに、短歌界のレーニンは斎藤茂吉となる。
 その岡井隆氏の評論『歌集「ともしび」とその背景』(07年10月刊、本体2381円・短歌新聞社)。サブタイトルが「後期斎藤茂吉の出発」とあるように、茂吉が墺独の留学から帰ってきての人間としての歩み、その思想、歌、周囲の人物、時代と、分析している。評論ほど、評論する著者の考え、思いが晒されるものは文章としてはなく、これ、本音であるのだが、きっちりした資料を駆使した上での〝物語〝として成立していて、ドキュメンタリー風の小説に読み手が嵌まる面白さなのである。〝歴史的事実伝記評論小説〝みたいなジャンルを切り拓いたのではと、三流作家三流半歌人は夢中になった後に気がついた。特に「赤彦臨終記」を評するところが、人間茂吉が現れ、興奮する。惜しいと言ったら畏れ多いが、茂吉の妻の〝夜遊び〝を含めた夫婦関係の突っこみの短いのが娯楽作家には、う~ん。
 五百頁の評論『鴎外・茂吉・杢太郎――「テエベス百門」の夕映え』(08年10月刊、本体4800円・書肆山田)は、更に、すごい。時代にこだわっているゆえか。三人とも現東大出の医者、小説家・歌人・詩人の交叉はやっぱり、読み手の好奇心を引きつけてやまぬ。えーっ、鴎外は短歌を作ってたんだ、芥川龍之介の目の上のタンコブは鴎外で、その詩を堂々と貶めていたんだなんてえことまで分かるのだ。







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