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評者◆添田馨
時間の魔法を操り、奇跡を起こす――絶望から人を救い出す、言葉のパワー
No.2903 ・ 2009年01月31日




 世界はいま百年に一度の経済危機だという。そのせいでわが国も秋以降、景気が一気に冷え込んで、昨年末には「派遣切り」の憂き目にあって行き場のなくなった人達のために、日比谷公園には支援団体による「年越し派遣村」なるものも作られた。失業した何百人もの人が集まったという。テレビのインタビューで、本当に困った時に助けてくれるものがあることの有り難さを、「派遣切り」されたある男性がしみじみ語っているのを聞いて、私も胸が熱くなった。
 これら世間的なことは、詩とは何の関係もないことだろうか。私にはそうは思えない。いま最も絶望しているのがこれらの人々だとしたら、それに感応した私の心の絶望も、彼らと共有することになった世界体験に他ならない。彼らと、私を繋ぎ止めるものが、絶望だ。だから私がもし、絶望から詩を作るとすれば、それは絶望を詩のなかで消し去るためである。その行為を通して世界に存在する絶望を解消するためである。ささやかな奇跡を起こす、そんな離れ業が詩には可能だと思うからである。
 昨年のことになるが、歌人の岡井隆さんとお話しする機会があった。岡井さんは、しきりと、詩は音楽とおなじ時間芸術だと言っていた。私もまったく同感だ。詩が奇跡を起こせるのは、時間の魔法を操ることができるからだ。頂戴した歌集『ネフスキイ』(書肆山田)には次のような作品があった。「時間とは つまり容器だ埋められて行く物事のうめき声して」――人間のさまざまな「うめき声」を、時間の容器が受け止めていくというモチーフ。
 永いこと私を苦しめる鬱状態も、初めは言葉の喪失からやってきた。自分の書いた詩が、自分を助けることができなくても、私は詩という魔法の時間のなかに自分を解き放つ試みを止めぬだろう。本当に絶望した時、助けてくれた言葉のパワーを、身をもって知っているからである。







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