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評者◆伊達政保
先輩の「金ちゃん」が最も熱く語った北方版『水滸伝』全十九巻
No.2903 ・ 2009年01月31日




 水滸伝研究会で、12年掛け金聖嘆評点本『水滸伝』(通称七十回本)を原書で精読したものとして、北方謙三著『水滸伝』全十九巻(集英社)に触れておかない訳にはいかないだろう。
 単行本は我慢して文庫化を待ち、発売毎に買い揃えて一気に読もうと準備をしていた頃、久し振りに中大赤ヘル(中央大学のブントです)の先輩と飲んだ。文化連盟の写真会に属していて、渾名は金太郎、赤ヘル軍団の軍曹的人物だった。ぺンクラブの北方氏とは文化連盟の同期で、みなオイラと同じ昭和48年に、学費闘争、ロックアウト、レポート試験で卒業している。今はTV番組の制作会社勤務である。この先輩、昔からの「水滸伝」フリーク。七十回本、百回本、百二十回本の翻訳違いから、日本の作家の翻案小説や漫画化作品まで全て読み、日本や中国でTV化されたものまで全て見ていた。当然酒の話題は「水滸伝」。各回本の異同から、金聖嘆の登場人物評に至り、竹中労・平岡正明著『水滸伝・窮民革命論序説』(三一書房)にまで及んだ。そして先輩が最も熱く語ったのが、北方版『水滸伝』であった。
 曰く、この小説は「水滸伝」に題材を借りた全共闘小説であり革命運動論である。「替天行道」というスローガンは、天子(帝)に替わって道(政事)を行うという事であり、これは国家権力奪取の方針である。梁山泊の盟主となる宗江が語った事を書き留めた冊子『替天行道』とは、革命綱領であり、心情的に赤軍派に共感を示す北方ではあるが、赤軍派の建党‐建軍路線ではなく、建国‐建軍の方向で物語を展開しているという。オイラまだ北方版『水滸伝』は読んでなかったが、中国思想で「替天行道」とは、天(神)に替わって道(道理)を行うという事であって、対抗権力、二重権力とはなり得るが、直接権力奪取の思想とはなり得ないと反論した。その後、錦糸町の河内音頭でまた飲もうと別れたのだ。
 半年後、八月末の錦糸町の河内音頭で毎年踊りに来る中大赤ヘルの後輩から、一週間前「金ちゃん」が肺癌で亡くなったと聞かされた。全共闘運動を現場で支えていた活動家が、また一人いなくなってしまった。
 北方版『水滸伝』を、中国版との違和感と長大なため二の足を踏んでいたが、一気呵成に読了してしまった。大学の先輩という事もあり、デビュー作から読んでいたが、これまでの北方作品の集大成ともいうべきものだった。北方氏自身、これは中国のことを書いたわけではなく、日本人が、日本の読者に向けて、日本の感性で書いたものだと言っている。中国版とは異なり、続編の『楊令伝』として全く新たな物語が書き進められている。楽しみだ。







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