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評者◆小嵐九八郎
土着語で、宮澤賢治の詩を詠んだ――山下聖美著『宮澤賢治のちから』(本体六八〇円、新潮新書)は実に気分が良くなる
宮澤賢治のちから
山下聖美
No.2900 ・ 2009年01月01日




 七歳の時に、秋田の外れから煙っぽい川崎に越してきた。土着語で、徹底的に苛められた。苛めの親分の親分を、石で叩いたら苛めはすぐに止んだ。苛めの傷を負った人間は成長すると苛める側に回るという説があり、大学のセンセエを缶詰めにしたのは幼い頃に原因があると居直りたくもなる。
 ところが、小三の時、美しい女の先生が当方に宮沢賢治の妹の死の際を歌った詩『永訣の朝』の朗読を命じ、秋田と岩手では違うとは思うが「上手ねえ」と誉めてくれ、土着語が誇りになる契機をくれた。賢治自身には土着語へのコンプレックスよりも、もっとスケールの大きいものへのこだわりがあり、偉大と正直に考える。ただ、研究書、案内書などはどうも凝り固まった傾きがあり、敬遠してきた。そもそも賢治は童貞だったというが、本当か。「先生は『性の心理』という翻訳本のふせ字の原文の部分をわざわざ仙台の本屋まで行って見てこられたりしました。/猥談は大人の童話みたいなもので頭を休めるものだと語り、誰を憎むというわけでも、人を傷つけるというものでもなく、悪いものではない。性は自然の花だといわれたことを覚えております」
 こういう、賢治の教え子の根子吉盛の話(『証言宮澤賢治先生 イートハーブ農学校の1580日』)の紹介など、なんと楽しい入門書か、『宮澤賢治のちから』(山下聖美著、新潮新書、本体680円)が、少し紹介が遅かったか、二カ月前に出ている。
 この新書の魅力は、ちょっぴり賢治が好きな人間にも、きっちり研究している人間にも通じる文献を含めた考証が公平で確かであること。そして、ここっ、というところで賢治の短歌(!)や詩や童話が入ってきて、論と文学が、手拭いを絞って水分を出すように、捩りあって調和がとれて、実に気分が良くなること。その上、しがらみ、業、確執、欲望、宗教と人間宮澤賢治を、同じくいろんな世界を持つ人間臭い目から見つめていることであろうか。







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