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評者◆立松和平
新春エッセイ 幸福だった日――戦禍を超えて迎えた、子供の頃の正月を思い出す
No.2900 ・ 2009年01月01日




 正月になると、父と母と過ごした子供の頃を思い出す。私の両親は旧満州からの引揚げ者で、戦中と戦後とを時代とともに生きてきたといえる。父が無事に故郷に復員してきて、宇都宮空襲を生きのびた母と再会をはたし小さな家庭をこしらえた時、働いたことが全部自分のものになるという当たり前の喜びを、深く感じたに違いない。そして、前途の希望としてまず生まれた子供が私だったのである。
 私が子供の頃、父は小さな電気工事会社に勤め、母は宇都宮のはずれで小さな食料品店をやっていた。そこは父と母とがやっと建てた家で、座敷は六畳一間しかなかったが、同じ広さの店が表通りに面してつくられていたのだった。
 他に食べものを売る店もないので、母の店は一年中繁昌していた。ことに年末は正月用品を売るので忙しかった。パン屋もやっていたためクリスマスケーキからはじまり、おせち料理用の昆布や寒天や黒豆や飴などが毎日仕入れ先から届けられ、いつもは母と店先でのんびりおしゃべりをしている近所の主婦たちが、顔色を変えて買いにきた。これらの客は夜遅くまでやってきて、母は客が去ってからおせち料理の仕度などにかかるのだった。もちろん弟や私は放っておかれた。夕食を食べさせてもらえず、店に向かった敷居の上に立って客たちをうらめしく見ながら、...







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