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評者◆杉本真維子
こころの水位を測る しずおか連詩2008(2)
No.2899 ・ 2008年12月27日




〈承前〉
この会は、静岡新聞、静岡放送、静岡文化財団が主催で、かなり大規模なものだ。期間中は連日、静岡新聞の一面で制作の模様が伝えられ、最終日にはグランシップというホールで発表会がある。そして、翌日の新聞ではその発表会の様子と全作品が二面をつかって掲載され、テレビでも放送される。県をあげて取り組んでいる、そういって差し支えないほど、静岡県の「しずおか連詩」への情熱は半端ではなく、当然、それだけのものを創らなくてはと、こちらもテンションがあがる。
座は5人で組むが、ほか大勢のスタッフの力によって、会は成り立っている。眠るときはホテルの自室に戻るが、それ以外はずうっと、朝から晩まで4日間、メンバーとスタッフの方々と一緒に過ごす。もちろん食事も一緒。どちらかといえば、ひきこもり傾向にある私は、ここまで長期間を大人数で過ごしたのは初めてのことで、初日はちょっと不安だったものの、別れ際は思わず涙がでた。みんなさっぱりしているのになんだか恥ずかしい。グランシップの楽屋で挨拶を終え、解散すると、卒業式の後のような、すうっとした、さみしい風が吹きぬけていった。
心に穴があいてしまった、そう思いながら、駅の土産物屋を見てまわっていると、ばったり、メンバーの山田さんに会った。まるで救世主が現れたかのように私は喜んだが、すぐに別れ、またひとりに戻った。ぱっと灯が消えた。ひとりってつまらないな、と思った。そう思ったことはたぶん初めてではないが、一方では、自分のそんなナイーブさにどこかで飽き飽きしていた。だから、解散後、さっと手を上げて、振り向きもせず、ひとりで楽屋の外へ消えた八木さんの姿が、ちらちらと脳裏に浮かびはじめていた。美しい後ろ姿だった。
最終日、もうすぐ40篇完成というとき、共同作業の部屋から見える窓が、真っ赤な夕焼けに染まっていたことを思い出す。そこには、カウントダウンへの少しの興奮と、「終わりたくない」という気持ちが混ざりあった複雑な空気が流れていた。その空気はおそらく誰もが共有していたものだが、だからこそ、大岡さんは、ばしっと、前だけを見ようとする力強い詩で、場の空気を切り替えたのかもしれない。
「二十五階を吹き過ぎる風に/短い髪をさらさら梳かせ/来る年も 丑のように歩く/どすどすと歩く/牛は牛連れ 馬は馬連れ」
私は丑年生まれなので、とくべつ、プレゼントをもらったような気持ちがしたが、たぶんほかのメンバーも、この一篇をきりっと心に持っていったのだ。「では、さて、またひとりの創作へと帰っていきますか」――。誰ともなく口にした、その言葉が、いまも響いている。








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