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評者◆杉本真維子
こころの水位を測る ~しずおか連詩2008
No.2897 ・ 2008年12月13日




 先日「しずおか連詩の会」に参加してきた。これは、静岡県三島市出身の大岡信さんを中心に毎年おこなわれている会で、今年で9回目になる。大岡さんをさばき手に、メンバーは、野村喜和夫さん、八木忠栄さん、山田隆昭さん、私の、ぜんぶで5人。11月19日に静岡市内のホテルに入り、20日から23日までカンヅメで創作、23日にはグランシップというホールで発表。初心者でかつ最年少の私は、みんなの足をひっぱったかも? と小心者なのでまだちょっと心配しているのだけれど、なにはともあれ、たいへん楽しい四日間だった。
 一番の収穫は、自分の詩がどういうものなのか、客観的に知ることができたことだ。連詩の場合は、基本的には一読で意味のとおる比較的易しい作品が好ましい。ところが、私が普段ひとりで書いている詩は、語の省略が多く、主語があまりないという特徴がある。それがひとつの手法になっていると言われたりもするが、大部分は意識的に省いているわけではなく、書けば自然とそういう文体になるらしいのだ。らしい、というのは、今回初めて自覚したからで、わざとやっているわけではないだけに、連詩にあたってその調整に苦労した。たしかに、私は普段の話し言葉にも省略が多く、他人と会話にならないこともたまにある。それが外国人には片言に聞こえるらしく、近所のコリアンタウンでお店に入ると、外見をみて「いらっしゃいませ」と日本語で話しかけてくる店員が、私の返答を聞いたとたん、慌てて韓国語で言い直したりする。けれども、そこまで省略しているとは自分で気づいていなかった、ということにびっくりした。自分の作品を一番わかっていないのは作者だというのは、まったく本当のことである。
 「ちょっと意味がわかりにくいかな」と、優しい大岡さんのやんわりとしたご指摘に、大慌てで血眼になって点検するものの、どこに省略があってわかりにくくなっているのか、焦れば焦るほどわからない。いや、それよりも、もっともショックだったのは、その指摘を踏まえ、ちょっとわかりやすすぎたかなあ、なんて内心照れながら、今度こそはと作品を提出したときも、同じく「難解」と言われたことであった。「えぇぇ!うっそお~!」と、驚きのあまり、無礼にもこんな言葉で大岡さんの前で絶叫したかもしれない。とにかく顔面蒼白で悶え、そんな私を見かね、野村さんが心配そうに駆けつける場面もあった(ああもう、なんという迷惑のかけようだろう。ごめんなさい)。
 というわけで、いったん無意識に消したと思われる言葉を、もう一度復活させる、あるいは新たに生みだす作業が、私にとっての連詩のためには必要だった。心に裏側から火を当てて、痛みのなかで、消した言葉を炙り出すような感じでもあった。それから、よく似ているなと思ったのは、テレビ番組で、ゲストが満杯に葉書の入った箱に手を入れて一枚を抜き出す「読者プレゼント」だ。まさにあのように、心のなかをかき回して手探りで言葉を拾い上げるのだが、そのとき、どの深さまで手を入れるかも、大変重要だった。あまり深い場所から言葉を拾いあげると、個人の作品のときはよくても、連詩ではそこだけ重くなってしまい、軽やかさが失われる。かといって、浅いものを書くということでもない。場の空気を読み、全員の作品を知り、心のどの水位から言葉を掬えばいいかを勘で探る、そのバランスがじつに大変で、ほとんど精神的な修行に近いものがあった。
 とはいえ、やっぱり楽しかった。そのうちコツを少しつかんだのか、青ざめて冷や汗をたらして書くことなく、無礼な言葉で絶叫することもなく、大岡さんに「うむ、なるほど」という有り難いお言葉もいただいた。後半には、もう何巡かあったらいいのにと、連詩が終わってしまうことを、心から惜しんだ。そうして、あっという間に三日間が終わったわけなのだけれど、この〝しずおか連詩奮闘記〟はまだ長くなりそうなので、続きは次回に。








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