書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆たかとう匡子
文壇予備軍的意識を根底的に問い返す論理を――生前の作者と作品にこだわり徹底した追悼(「SOOHAスーハ!」第4号)
No.2897 ・ 2008年12月13日




 今月は追悼特集から入りたい。「SOOHAスーハ!」第4号(よこしおんクラブ)は最近亡くなった詩人の古賀忠昭を追悼している。掲載された詩を読むと徹底した生活深部詩で、生活の根っこまで這いつくばるようにして書いている。そして底辺社会をテーマにした土俗的な詩集『土の天皇』と、亡くなる前年に編んだ『血のたらちね』のあいだには三十年の絶筆期間があるという。だが、その長い長い沈黙の、書かなかった期間も古賀は詩人でありつづけたし、それはそのあとの詩集を見たらわかると言う。その詩集を陶原葵は「病み呆けた内臓を自ら引きずり出して、どす黒い塊を指でなすって書かれた肉親への恋歌」と記す。他、娘さんの古賀繭さんへのインタビュー記事、「古賀忠昭考」として、稲川方人や若い中尾太一など九人の論考、ここまで生前の作者と作品にこだわり徹底した追悼は私の知るかぎりない。
 もう一冊は「山脈」第125号(山脈会)の筧槇二追悼号。じつにたくさんの人が訣れを惜しむ言葉を寄せていて、このハッピイな追悼のされ方から筧槇二の生前の人柄や作品行為が伝わってきてこころ温まる思いがした。私も追悼の気持ちをこめてこのことを書きつけておく。
 「綱手」第244号(綱手短歌会)は「戦後短歌を考える」に興味を持った。河村盛明「自我意識より自虐へ」、鎌田博夫「詩と創造」、米田弥太郎「短歌の批評について」を読んだが、戦中から戦後にかけて小野十三郎が展開した「短歌的抒情の否定」など、短歌のリズムが戦争のリズムを作りだしたという痛烈な反省をともなったはずの戦後短歌の苦悩にはだれも触れていない。そこを触れずに戦後短歌が考えられるかという心残りがあった。その点はどうだろう。ぜひともやってもらいたい。
 「全作家」第71号(全作家協会)は「私の小説作法」と題して、豊田一郎、陽羅義光、崎村裕、畠山拓、野辺慎一らの「ミニ講演」を掲載。文学が楽しかった時代に書くことをはじめた人たちのようで、なんだか楽しそうで引きずられて読んだ。ベテランだけに肉声が聞こえてくるようで展開の仕方も楽しい。
 今月は小説もたくさん読んだ。結果的には老人の性、老人の病気や死、老後の不安その心境を描いた作品が圧倒的に多かった。こういったテーマからは同人雑誌の構成員そのものが高齢化していることを逆にうかがわせることになる。また、先日の朝日朝刊にも出ていたが、「文學界」の同人雑誌評がなくなったことがあちこちに書かれているのも今月の特徴だ。ここも逆にいえば、同人雑誌が「文學界」にもたれかかって、みずから文壇予備軍的意識にとりこまれていたことをうかがわせる。この際、その在り方を根底的に問い返す論理の立て方もいるのではないだろうか。
 こういった流れで読んできて、「季刊午前」第39号(季刊午前同人会)野見山潔子「ここにおる。」で若い男と女の話が出てきてほっとした。書きだしはこんなふうに始まる。「運転手さん、校門の前の道を右に曲がってくださらんか。電柱が見えますでしょうが。まっすぐ行くとです。よかですか」。田舎で一人暮らしだった母が死んで、家の片づけや、周辺の雑草を刈りに帰ってくる一人娘の、この書き出しはなかなかのもの。娘は都会で結婚したが男は女を作って出て行ってしまった。雑草を刈っているところに中学時代の先輩が手伝いにきてくれたりして、そこにまた新しく始まる男と女のドラマも予感させて、全体として平明だけど温かい。バックボーンに生前の母の声を重ねたのもいい。リズミカルでテンポもある。
 「北」第52号(北同人会)都丸圭「迷惑者リスト」も男と女が別れて、男は携帯の「迷惑者リスト」に女を登録して接触を拒否する。女は残された男の持ち物を返そうと、手紙を出したりハガキを出したりするがそれも返送されてきて、男はいっこうに現れない。男によかれと思ってした結果が女を深く傷つけることになったという、よくある話のようだが、そうとも言い難い一面もある作。ともすれば妙な情念に入ってしまうところを押さえて、不思議な出来栄えを示している。
 「双鷲」第70号(双鷲社)は二人誌で、創刊35周年記念号。楢信子「夢の鎖〈その五〉」は創作ノートに書きとめた忘れ難い夢を綴ったもの。ひとつひとつの短章が小気味よく、スケッチ風。「カルチェの夏の上衣」は阪神大震災で何もかも失った弟がしわだらけの服を着て出てくる話。私も震災体験をしているだけに妙にリアリティがあると思った。短文のばあい読ませるのと読ませないのとがあり、読ませるのは徹底的に面白いが、面白くなければ全然面白くなく、真ん中はないようだ。と思いながら読んでこちらは楽しかった。稲垣瑞雄「堤」はちょっと内田百〓風。堤の上を行ったり来たりし、そこでの釣りの場面など丹念に書きこんで、そこに父と母の重たいドラマを重ねて、文章に無駄がなく読後感はさわやか。読者を不思議な幻影に引きずりこむところが魅力的だ。
(詩人)

▼SOOHAスーハ! 〒236―0027横浜市金沢区瀬戸5―3―901  野木京子方 よこしおんクラブ
▼山脈 〒239―0802横須賀市馬堀町1―21―11  渡邊順子方 山脈会
▼綱手 〒359―1145所沢市山口1310 田井安曇方 綱手短歌会
▼全作家 〒123―0864東京都足立区鹿浜3―4―22  (株)のべる出版企画内
▼季刊午前 〒812―0015福岡市博多区山王2―10―14  脇川郁也方 季刊午前同人会
▼北 〒120―0026東京都足立区千住旭町42―2 北千住駅ビルLUMINE9F よみうり日本テレビ文化センター内 北同人会
▼双鷲 〒193―0845八王子市初沢町1299 高尾スカイハイツ505  稲垣瑞雄方 双鷲社







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約