書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆杉本真維子
わたし/感情
No.2896 ・ 2008年11月29日




 できるだけお金のかからない方法で殺すことが、考えられないほどの残酷にいたることをある日、わたしは知った。
 のどに棒をつっこむ
 しっぽを持って頭を地面に叩きつける
 頭を数人で踏む
など、これらの方法をもってぐったりさせ、残業になっても賃金がでないので、まだ生きているうちにナイフで皮を剥いでいく。でも、まだ、生きているから、急に暴れだすこともあって、そうしたら殴る。殴ってはまた剥ぎはじめる。その作業の繰り返しによって、一枚のコートができあがった(毛皮を傷つけないように、頭だけをやらなければならない)。その後ろでは、すっかり皮を剥がされて、いったい何の生き物だったのか判別もつかない、つやつやした血まみれの肉の塊が蠢いている。よく見ると、まだぴくぴくとまばたきをしている。ゆっくりと首をまわし、ぴたっと動きを止めると、そのまま後ろに倒れこんで、痙攣しながらついに絶命した。
 きつね、うさぎ、たぬき、いやもっと、犬も猫もたくさんいた。わたしが見たのは、たぶん犬であった。仲間が殺されるところを見ながら、じぶんも次の順番を待っていた。どんな気分なのだろう。でも、わたしも、むかし、そんなふうに並んでいた気がするのだ。
 なぜ、わたしは、見てしまったのだろう。洋服やバッグの縁についているファー、かわいいファーのマフラー、コート、これらが、どうやって製造されているのか、ある日、きゅうに疑問に思い、調べてしまった。恥ずかしかったのは、わたしはこれらは、すでに死んだ生き物からとっているものだと、なんとなく、思っていたからだ。 
 でも、死ぬのを待っていたら、商売は成り立たない。その当たり前に気づかぬほど、何も考えず、そうやって殺された動物の毛を撫でていたわたしの指と、怖いといって怯えるわたしの指は、決して仲たがいしてくれない。これからも、矛盾せずに、繋がれたままあるのだろう。ただ、それでもやっぱり、こんなことはもういやだ。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約