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評者◆伊達政保
観客と一体となった祭祀空間を現出させる――9月13・14日の「天幕渋さ知らズ・木更津大作戦」
No.2896 ・ 2008年11月29日




(前号よりつづく)
 「天幕渋さ知らズ」について、「渋さ」のリーダー(ダンドリストと称する)不破大輔は、2001年「天幕渋さ」のチラシなどで次のように述べている。「芸能の発揮には、演者・観客が揃って始めて行なわれる」「旅公演は制作者と演者と受け入れ者の共同作業の事業であり、制作、宣伝、テント設計、設営、調理、物資調達、積み込み、運搬を全て自分たちで行なう、賄い旅」。「それは、公演を受け入れる、演奏する、観客であることの、まだ見ぬ構造、幸福な出逢いを模索するものであり、構築するものです。そして興行は、自由な空間の創設、更なる解放区の設営に向かうことを射程内とし、新たな関係表現の場となることを目論むものとする」。これはアングラ演劇の指向性そのものではないか。
 昭和40年代、既存の演劇を批判し、自らの演劇を創造しようとして、「状況劇場」等幾つかの劇団が活動を始めていた。当初の小劇場運動から脱却し、あるものはテント公演へ、そして地方公演へとその活動を広げていった。非日常性の時間と空間を、俳優と観客が共有する、劇的空間、祭祀空間の創出が叫ばれ、巷に騒擾を巻き起こそうとし、演劇の原点に回帰しようとする意味で、「河原者」や「旅芝居」といった概念が論じられ、実践に移されていった。テント芝居、旅公演というスタイルも、その中の一つとして確立した。そうした動きは、多くの劇団の輩出を促していった。時代はそれらを総称してアングラ演劇と呼んだ。
 オイラも昭和42年に偶然見た「発見の会」を皮切りに、状況劇場の紅テント、寺山修司の「天井桟敷」、「演劇センター68/71」の黒色テント、菅孝行の「不連続線」などを見に行っていたが、演劇フリークだった訳ではない。昭和40年代文化は、ジャズ、ピンク映画、アングラ演劇を最先端として、新宿をバック・グラウンドとして存在しており、学園闘争、街頭闘争も含めた渦の中で、現場をかけずり回っていたというのが本当のところだった。
 現在、かつてのアングラ劇団の一部は、行政参入もあって乱立する小劇場の中に、先祖返りをしてしまったようにも見える。一方、唐十郎の「唐組」はテント公演に拘り続けているし、「状況劇場」の系譜の「新宿梁山泊」もテント公演を希求している。知る限り最も過激なアングラ劇団であった「曲馬舘」の流れを汲む、「野戦之月海筆子」や「水族館劇場」は、今でもテント公演を続けている。
 「渋さ知らズ」はこうしたテント旅公演を演奏表現活動に繰り込む事により、既存のステージに縛られない自由な演奏と、観客と一体となった祭祀空間を現出させようとしているのだ。
(おわり)







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