奈良県御所市に生まれ育ち、同和教育のなかで全国水平社創立宣言を身近に感じて生きてきた者にとって、宣言起草者である西光万吉が、一九三七年に書いた文章で当の宣言を否定し、全国水平社の存在そのものを無意味と断じたという事実には、深い衝撃を覚えざるをえない。だが、その落差にこそ両次大戦間期の水平運動史の錯綜とその振幅が存在したことを、朝治武氏の『アジア・太平洋戦争と全国水平社』によって教えられた。
　西光が、創立宣言はもとより荊冠旗までをも否定した背景には、「新生運動」と全国水平社との関係が横たわっていた。本書は、その細部の動きに至るまでを実証的に研究し、史料批判をとおして西光らの言動と歴史的背景をえがいている。これまでの思想史・言説史的研究にはなかった具体的な運動史の推移が、豊富に織り込まれた史料をとおして手にとるように伝わってくる。
　新生運動と全国水平社の関係は、水平運動史における転機をなす重要な問題であり、これまで等閑に付されてきた事実がここで究明されており、本書の白眉をなす部分だといえる。
　一九二八年の三・一五事件に連座して逮捕された西光は、釈放後の一九三四年に大日本国家社会党の結成に参加した。国家社会主義の同党への参画は、日本主義に基づきながら、国家において水平化をは...






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