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評者◆生野毅
俳句形式を揺さぶる意識――小湊こぎく句集『爽』(現代俳句の展開72  現代俳句協会刊)
小湊こぎく
No.2894 ・ 2008年11月15日




 いささか身も蓋もない言い方ではあるが、そもそも俳句におけるラディカリズムとはいったい何であるのか、あるいは、それはそもそも成立可能なのか――。〈俳句形式〉が詩形式の最高峰であると自負し、さらに既成の〈俳句〉を破壊し、革新することに日々精進している先鋭なる〈現代俳句〉の書き手たちの胸中に、このような抜本的な疑問が宿ることはないだろうか。〈有季定型〉の枠に身の丈を縮めることに無上の喜びを覚える輩はいざ知らず、〈現代詩〉にもまして詩的観念・妄念の渋滞ぶりが目に余る〈現代俳句〉に対して外野席からは「なぜ俳句にこだわるのだ、いっそのこと〈詩〉を書けばよいではないか」との野次も後をたたない。もちろん、俳人とは方法として〈俳句形式〉を選ぶ者ではなく、〈俳句〉に理不尽に追われる者のことだが、〈俳句〉という桎梏から一歩踏み出そうとする俳人の努力と、〈俳句形式〉それ自体がすでにラディカルであるという、多くの〈現代俳句〉の作者たちにとっての暗黙の前提(これは俳句は保守的・伝統的であるという思考の裏返しともなる)の間に、間隙はあるのか、ないのか――。
 小湊こぎく氏の句集『爽』(現代俳句の展開72 現代俳句協会刊、2008)は、前述の私(たち)の陥る〈現代俳句〉のディレンマを、タイトルさながら「爽快」なまでに断ち切ってくれる。その理由も明白で、それは小湊氏が「俳句の桎梏から一歩踏み出すラディカリズム」と「俳句それ自体のラディカリズム」というアンビヴァレンツを、自らぎりぎりの形で生き切っているからだ。
 とはいえ、『爽』の句の語彙は一見究めて平明である。
 「俳句形式を揺さぶる意識」「いつでも五七五の形式を崩してやるという覚悟」(筑紫磐井の跋文『定型の魔法(マジック)』より)はどこに見出されるか。
道はまっすぐ木苺が終わらない
「慕情」が海をノックする
さがしていたと翼龍に伝えよう
母の日に雲の峰
カンナから始めた女
戦争は夢のはらわた
 句集半ばからとりわけ顕著になる現代でも例外的な字足らずの句群は読者をハッとさせるが、それらは筑紫が指摘するように「伝説的な俳句の詠法を原理的にさかのぼった」(つまり俳句本来のラディカリズムへの遡行)ことで生れた。一方でそれらは俳句と俳句ならざるもののあわいに、未知の光を喚起する寸止めの効果をあげているのである。







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