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評者◆杉本真維子
ハートの15
No.2891 ・ 2008年10月25日




 本棚の前をとおると、急にばさっと一冊の本がおちてきた。弱りきった鳥が翼をひらくみたいに、それは床におちていた。強引な入れ方をしているからだろうか。でもこんなことは珍しい。手にとると、ずいぶん古い「姓名判断」だった。しかも他人の線引きが入っていて、とても読みにくい。どこで入手したのかもう覚えもないが、私以外買う者はこの家にいないので、何かのついでに古本屋で買ったのだろう。表紙には「文字の霊が、あなたの運命を左右する」とあって、「霊」というのがちょっと怖いが、ふだんから文字の持つふしぎな力を信じているからか、あまり抵抗がなかった。
 『姓名判断』(カッパブックス/1985)。著者は野末陳平とあり、1990年に22刷とあるので、ずいぶん売れたようだ。読みやすいので勢いにまかせ、30分で読んでしまった。姓の一番下の漢字と、名の一番上の漢字を足した数字が「ハート」といって、性格や相性などをみる。ほかにも姓の総画数が「トップ」、名の総画数が「フット」、名の一番上と姓の下の部分が「サイド」、氏名全体の総画数などでも占うという(ちなみに姓や名が一文字のひとは少し計算方法が変わる)。
 ためしにやってみると、私の「ハート」は、本と真で15。診断によれば、「好きなことは一生懸命やるが、興味のないことには努力も情熱も傾けない」とあって、たしかにそんな面はあると頷く。ほかにもずばり欠点を突いているところもあって、自分にしかわからない順路で、あのときの怒りの理由はここにあったのか、など、色々見えてくるものがあった。
 たぶん、じぶんの信じたいことだけを信じて、言葉を取捨選択しながら繋いでいく細い手すりのようなものが、占いなのかもしれない。それは一見、危ういことのようにみえるが、占いが教えることは、未来ではなく、あくまで現在だということ。ここより先はほんとうに白紙で、何もない。その限界を知るとき、不安とため息の一方で、じつは気持ちいいほどの自由に触れているのではないか、とも思う。
 それから、相性占いもやってみた。ハート15と同じ数、あるいは5や25などの5系統を、どこかの部分に持っているひと(とくにハートに持っているひと)は、男女ともに縁があるようなので、ほんとかな、と試したくなり、友人、知人、腐れ縁のひとも含めて、身近な何人かの数字を出してみたら、なんとひとりの例外もなく、すべてのひとが、どこかに5を持っていた。しかも、むかし、大好きだったひとの「ハート」が15だったので、感心して誰かに話したいとうずうずしていると、網にかかるように、友人Yさんが電話してきた。すると、彼女の意中のひとの「ハート」も、彼女の数とぴったりだった。
 しかし、翌日、何か予感がしたのだろうか、もう一度かぞえてみたら、彼の「ハート」は15ではなく、まったく関係のない数字であった。ほかのひとは間違えていないのに、彼だけは違った。へんな汗をかきながら、なんど計算しても、あれっきり、二度と、15になることはなかった。







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