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評者◆小嵐九八郎
大自然の匂いが詰まっている本――市川善吉著、聞き手・簾内敬司『山の人生』(税込み七〇〇円・北羽新報社)
山の人生
市川善吉著、聞き手・簾内敬司
No.2890 ・ 2008年10月18日




 山野草を摘んで食うのが好きである。仕事場の付近ではクレソンや芹を摘んでシャブシャブにする。クレソンのあの辛さは、熱湯を通すことで味が良くなる。川崎の自宅にいる時は嫁菜、蓬、菊の葉、ドクダミを天ぷらにして食う。ドクダミは油の温度管理が難しいが、劇的においしくなる。
 釣りも好きである。釣り人の話はテキトーに聞く必要があるのだが、今年の夏は北海道の日高山脈の麓で、熊の出現に脅えながら、二五センチから三〇センチの岩魚を八匹釣った。フィクション作家も、事実を言うことがある。
 ゆえに現関東人としては、山野草の玄人といわれている。俺の処女長編は、二メートルの淡水魚を釣り損ねて死ぬ少年の話『巨魚伝説』である。
 んで、こんなものではない、山里というより山の中に入り、暮らし、山菜やキノコを採り、魚を突いたり釣ったり、そしてそれらの豊かさをくれるブナの森を守り、「白神山地の案内人」として自然の有りがたさを伝えている人にインタビューした八二ページほどのブックレットが出た。当方が八歳まで育った北秋田の山や川を背負っている人、七六歳の市川善吉さんが語る『山の人生』(聞き手・簾内敬司さん。北羽新報社、税込み700円、連絡先:TEL0185‐54‐3150)である。
 俺も孟宗竹のタケノコの盗み名人であるけれど、それよりうまい細竹の生えているところはどこか、マイタケはどんなところに生えているか、その塩の保存と塩の抜き方など涎を垂らして読んでしまうけれど、それよりも山及び里が現代の産業史によってどれだけ疲れてきたかが分かるようになっている。それだけでなく、こういうところでの父親の躾というのが「父と子の同格」という教育論も出てきて、好い加減だった父親の当方は考えこむ。大自然の匂いが詰まっている本なのだ。
 なお、聞き手の簾内敬司さんは『菅江真澄みちのく漂流』(岩波書店)でエッセイスト・クラブ賞を貰っていて、質問も的確である。







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