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評者◆伊達政保
もはや歴史の偽造にまで至っている――森正人著『大衆音楽史 ジャズ、ロックからヒップ・ホップまで』(中公新書)
大衆音楽史 ジャズ、ロックからヒップ・ホップまで
森正人
No.2890 ・ 2008年10月18日




 若手の学者による真摯な研究が、結果的に歴史を変造してしまうこともある。最近出た『大衆音楽史 ジャズ、ロックからヒップ・ホップまで』森正人著(中公新書)がそれだ。著者の姿勢は「音楽を音楽として語るのではなく、音楽を取り巻く社会的状況を複眼的に捉えながら語る」というものである。オイラも全く同感だ。著者は文化地理学という学問分野を通じて音楽を語ろうとし、「大衆音楽の文化史」を展開しようとしているという。
 しかし本書を読み進むうち、タイトルと内容が違いすぎる、表題を付けるとすれば「大衆音楽史への一視点・ジャズ、ブルース、ロック、パンク、レゲエ、ヒップ・ホップ」とするしかないと思えたのだ。全体的な歴史の流れにではなく、個々のジャンルの歴史を大衆音楽の中に位置付けるという内容だからだ。これは著者だけではなく、編集者の責任でもあるがね。またポピュラー・ミュージックを「大衆音楽」と表記すると言いながら、商品化され大衆に消費される音楽、言い換えれば大衆に流行する音楽に対する蔑視のようなものが伺えるのだ。アドルノを持ち出すまでもなく、大衆社会批判というアカデミズム特有の姿勢が著者にもあるのではないか。
 さて各章の内容だが、著者がイギリスの大学に招聘時、資料収集も含めて大分が書かれたということもあって、ロンドンのミュージック・ホールの歴史は興味深かったし、パンク・ロックについても教えられることが多かった。しかし黒人音楽の項のジャズ辺りから参考資料によるのだろうか黒人・ジャズ対白人・クラシックという人種二元論が現れてくる。アメリカの大衆音楽となったスイングについて、黒人のフレッチャー・ヘンダーソンが自分のバンド演奏で大衆に受けなかった編曲を、白人のベニー・グッドマンが演奏することで大ヒットしたという事実に対し、白人のクラシックの素養ということにすり替えてしまう。実際は黒人のデューク・エリントンやヘンダーソンのほうが、白人ジャズ・マンよりクラシックの素養があったのであり、そんな単純な構造ではなかったのだ。そうした人種二元論は、白人主導のモダン・ジャズに対するアンチとしてフリー・フォームを演奏する黒人ミュージシャンが現れるという記述にまでエスカレートする。黒人音楽の主導性を強調する余り、もはや歴史の偽造にまで至っているのだ。
 ところで黒人ドゥー・ワップ・グループのプラッターズとは何者だね。「オンリー・ユー」などの大ヒットで知られるヴォーカル・グループ、ザ・プラターズのことかね。せめて自分が本書に書いた音楽ぐらい聞いておいて欲しいと思う。







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