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評者◆金子勝
グローバリズムの逆回転、長くて深い世界同時不況へ――「帝国」の時代が終わり、脱中心になる
No.2890 ・ 2008年10月18日
「ポストモダン」思想は、しばしば歴史文脈主義(歴史相対主義)と特徴づけられる。しかし、今がどのような歴史状況にあるのかが語られることは少ない。だから歴史文脈抜きに、格差縮小や福祉国家の再建のために、アメリカン・リベラルが再評価されたり、グローバリズムに対抗するものとしてリベラル・ナショナリズムが評価されたりする。
国際状況については、しばしばネグリ=ハートの「帝国」という概念で語られる。脱中心のイメージはインターネットのそれに重なるが、市場原理によって世界はフラットになっていくという新自由主義のそれとも重なってくる。それでは、中心にいる米国ブッシュ政権が仕掛けたイラク戦争も、インターネットの届かない途上国で頻発する民族紛争やナショナリズムの台頭も説明できない。そして、イラク戦争の失敗、戦後最大の金融危機そして資源ナショナリズムの台頭とともに、米国の覇権衰退が起きて「脱中心」に向かおうとしている現在が理解できなくなる。過去に「危機」という概念が安売りされてきたせいもあるが、歴史的転換の意味を考察する思考そのものが萎えてしまったのだろう。 いま、一九九〇年代に世界を席巻したグローバリズムが逆回転を始めている。戦後最大の金融危機はそれを象徴している。九月に入って、九月七日に、住宅ローン担保証券の半分近く(約五兆ドル)を所有ないし保証している連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が実質的に破綻して国有化が決まった。九月一五日には、米国第四位の証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻し、第三位のメリルリンチがバンク・オブ・アメリカに買収された。そして翌一六日には、米国最大手の保険グループAIGが、FRB(連邦準備制度理事会)から八五〇億ドルのつなぎ融資を受ける代わりに、事実上国有化された。その後一〇ヵ国の中央銀行が協調してドル資金を供給しているにもかかわらず、信用逼迫が収まっていない。今や互いに疑心暗鬼になって資金の出し手がいなくなっているからだ。ゴールドマン・サックスもモルガン・スタンレーも、証券会社から「銀行持ち株会社」に衣替えし、これで米国の証券大手五社が消えた。米銀第四位のワコビアもS&L最大手のワシントン・ミューチュアル・バンクも買収された。さらに欧州にも飛び火し、ベルギーの金融大手フォルティスの国有化とデクシアへの公的資金注入、英国の住宅金融会社最大手のHBOSやB&B(ブラッドフォード&ビングレー)の救済融資などが起きている。規制緩和や民営化による金融自由化、そして証券化・グローバル化という米国の金融資本主義モデルは完全に破綻した。 もちろん、金本位制をとらない現代資本主義は大恐慌のようなカタストロフィは起こりにくい。それゆえスローパニックが進む。IMF(国際通貨基金)は損失が一・三兆ドルになると推計するが、問題はまだ半ばにも達していない。たしかに一〇月一日に、七〇〇〇億ドル規模で住宅関連証券を買い取る金融安定化法が米議会を通過した。しかし、これは矛盾だらけだ。複雑な証券化のせいで公正な「入札」価格がつけられず、自己資本不足の金融機関は利用できない。さらに銀行や投資銀行傘下にあるヘッジファンドや投資ビークル(SIV)には不良債権化した証券が大量に眠っている。これから、この「影の銀行システム」が崩壊していき、いずれ金融システムがもたなくなる。 さらに、信用収縮や金融機関の破綻が世界規模に波及していくだろう。イギリス、スペイン、アイルランドなど欧州でも住宅バブルが崩壊しているからだ。他方で、原油や食料の価格が上昇している。資産デフレと資源インフレが同時進行する異常事態だ。長くて深い世界同時不況になるだろう。 問題は、一九八〇年代と違って米国の「双子の赤字」を支えているのが米国の同盟国ではない中国、ロシア、中東諸国といった国々だという事実である。これらの国々は巨額のドル外貨準備をため込んでいる。先の住宅金融公社二社の債券だけでも、中国は三七六〇億ドル、ロシアは一〇〇〇億ドル持っている。彼らが投げ売りすれば、たちまち米国の金融システムは潰れる。ロシアは石油生産が世界第三位、イランと合わせれば、天然ガスの埋蔵量の半分を占める。ところが、グローバリズムに代わって国家原理が衝突する時代を迎えている。そして今後は、内向きの「自社会中心主義」が強まってくるだろう。まるで世界はナイフのエッジを渡っているようだ。 これからは新自由主義批判が普通になる。求められているのは、新自由主義を超えた国家や社会のあり方を提示することによって内向きのエネルギーを吸収しながら、グローバリズムに代わる新しい国際秩序を構想することである。歴史の文脈は変わったのだ。 (慶應義塾大学経済学部教授) |
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