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評者◆秋竜山
哲学者らしいお答え、の巻
No.2889 ・ 2008年10月11日




 中島義道『生きにくい……――私は哲学病』(角川文庫、本体四七六円)では、「なぜなぜ病=哲学病」という病気、いや病人について、解説している。子供はみんな「なぜなぜ病」にかかっているだろう。つまり、大人にむかって(かならずしも大人でなくてもいいだろうけど)「なぜ、なぜ」を連発して、みんなを困らせるのだ。「いいかげんにしろ!!」と、叱られて、「なぜ」と聞くといったものだ。この「なぜなぜ病」で想い出がある。忘れもしない、たしか中学一年生の時であった。授業中に一番前の席で私は「なぜなぜ病」の症状を一人で発揮させていた。教頭が「みなさんは、中学生になられたのだから、今までの小学生とは違います。中学生としての自覚をもって中学生らしく……」私は、大きな声で「なぜ」と叫ぶようにいった。教頭は驚いた顔をした。そして、話を続けた。私は「なぜ」と、また叫んだ。教頭は声をつまらせた。そういうやりとりがあり、私が「なぜ」と、同じ質問?を繰りかえすと、教頭が私にむかって叫んだ。「きみは、いつまでたっても子供なんだから」。私は「なぜ」と叫びたかったが、やめた。その時の印象があまりにも強烈だったせいか、未だに忘れない想い出となっている。本書で面白かったのは〈三島由紀夫が自決した日の思い出〉という中で、
 〈大森荘蔵先生のゼミが始まっていることに気づく。急いで駒場に向かい扉を開けると、(略)「今、三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊本部で割腹自殺したそうです!」私は興奮して叫んだ。すると、ほんのしばらくの沈黙の後、大森先生は「ああそうですか」と言われた。そして「では、次に進みます」と黒板にさらさらと次の数式を書きはじめた。学生たちも、何ごともなかったかのようにそれを写しはじめる。ゼミが終っても、先生はそれについて何も語らずにそのまま教室を出られた。(略)たぶん先生は「今、天皇が死んだようです」と伝えても「今、大統領が暗殺されたようです」と伝えても「ああそうですか。では次に進みます」と答えるであろう。それが哲学者のあるべき態度なのであり、それが哲学をすることなのである。〉(本書より)
 なるほど!! それが哲学者なのか。と私は思い感心したりする。そして、自分は(すぐ自分のことに置きかえてしまう私のもっとも悪いクセだ)漫画病患者であるから、先生としてその時どのような態度をとるか。なんて考えてしまう。「ああそうですか。では次の漫画のアイデアに進みます」とするか、それとも、「この大事件をどのような漫画であらわすべきか」なんて、漫画病にしては、トーゼンなあるべき態度かもしれない。実をいうと、あの大事件を知ったのは、仕事部屋で漫画を描いている最中であった。かけっぱなしのテレビのニュースであった。その時、私の態度といったら、「エーッ!! びっくりした」であった。びっくりした状態で漫画を描き続けていたのであった。そこで、フッと思ったことは本書の大森先生である。ほんのしばらくの沈黙の後、大森先生は「エーッ!! びっくりした。では、次に進みます」という具合だったら、どーなのか。まったく意味合いがちがってくる。哲学をするということは、むずかしいのである。哲学者らしくすることは、むずかしいだろう。







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