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評者◆秋竜山
わたしは何者?、の巻
No.2888 ・ 2008年10月04日




 幼児にたずねた。「今、何時?」。幼児が答えた。「一分」。何回聞いても、大きな声で「一分」と答えるのだった。奇妙な答えかたがあるものだ。と、首をひねった。誰かにおそわったのか。おそわったとして、そんな答えかたを、おしえるだろうか。謎のままだ。浜田正編著『バカと言われないための哲学入門』(中経の文庫、本体五五二円)を、本書でいうように「哲学は新鮮な驚きとともに始まる」によって読み始めるのが正しいだろう。
 〈古代ギリシャの哲人はそう語りました。哲学の出発点には、若々しい感性があります。年齢は関係ありません。驚きから始まり、知的好奇心が原動力となるのです。〉(本書より)
 そして、第1章では〈「わたし」は何者なのか、哲学の最初は自分自身を知ることから。「わたし」を動かしている何かについて考えてみよう。〉から、だ。「お前は、何者なのか?」と他人に問われるより、自分自身に問う、「わたしは何者なのか?」のほうが、ショッキングである。もちろん、自分が何者であるか、答えられないだろう。哲学が答えてくれるのだろうか。こんなこと哲学でなかったら、「お前バカか」と、いわれるだろう。〈第5章、「歴史」に終わりはあるのか。歴史はどこに向かって進んでいるのか? そして人に「死」があるように、歴史にも終わりはあるのか。〉では、「時間」についてである。時間のたつのは早い〓 と、誰もがいう。年齢が重さむほど、その速度も速まるようだ。地球の回転が早くなったのだろうか。ボーッとしている時間が長いと、時間の速度を早く感じるものだと誰かがいった。子供にはそのような観念はないだろう。ボーッとしていないから、子供は時間を待つものだろう。昔、娯楽の少なかったせいか「あと、いく日寝たら、お祭りだ」とか「もー、いくつ寝るとお正月だとか」。いや、待てよ、それは大人もそうだった。
 〈時間を「時間」として理解することは意外に難しいことです。わたしたちは通常、時間を空間に置き換えて測っているのではないでしょうか。たとえば、通りがかった人に「東京駅までどのくらいですか?」と尋ねたとします。すると相手は、「あと五分ばかりですよ」と時間で答えたり、あるいは、「その先、三〇〇メートルです」と距離で教えたりします。この場合、時間にせよ、空間上の距離にせよ、どちらで答えても用は足せます。〉〈ベルクソンによれば、外部の空間に置き換えて測定される規則正しい時間と、わたしたちの意識のなかで感じられる真の時間(ベルクソンはこれを「持続」と呼びました)とは、まったく異ったものです。たとえば、時計では同じく九〇分間として測られた出来事でも、面白い映画やスリルに満ちたサッカーのゲームなどは、退屈な会議よりもずっと短く感じられますね。〉(本書より)
 「持続」の真の姿とは何か、と考えた時、「今」ということを考えざるをえないだろう。「今」とは何か。「今」について、いろいろ説明されると、「なるほど」と、わかったような気分になる。ところが、なんにもわかっていなかったりする。今を生きる。とか、瞬間を生きる、とかいうが。わかったような、わからないようなものだ。「今、俺はこれでよいのか」と自分に問うと、「いいわけない」と、いう答えしかないようだ。それにしても、「わたしは何者?」なんだろうか。わからない。わからないほうがよいかもしれない。







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