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ロラン・バルトの『明るい部屋』に「決着」をつける
『明るい部屋』の秘密――ロラン・バルトと写真の彼方へ
青弓社編集部編
No.2888 ・ 2008年10月04日




 写真論の必須文献を挙げよ、と問われれば、ベンヤミンの『写真小史』(あるいは『複製技術時代の芸術作品』も)、ソンタグの『写真論』、そしてバルトの『明るい部屋』とまず答えることに異論を呈する人はあまりいないだろう。いまや「一家に一台」ではなく「一人に一台(以上)」になった電話にもカメラは当然のように常備され、写真を撮るにしても、現像に出してそれが仕上がってくるまでのある種の「もどかしさ」からわれわれは解放されたかに見える。しかしそんな時代にも、かの書物たちはまったく色褪せずにある。その中でも、一九八〇年に原著が刊行された「特異な書物」、バルトの『明るい部屋』は彼の遺著でもあり、かつその変わらぬ魅惑的な文体、ポレミックな内容(『明るい部屋』は、本書所収の川島建太郎氏がその論文でいうように、写真の理論書というより文学テクストである)ともあいまって、写真を論じようとする者をなおも惹きつけてやまない。
 本書冒頭、編者は本書刊行の動機として、「『明るい部屋』にある種の〓決着〓をつけてみたい」からだと宣言する。続く、「『明るい部屋』が写真論としていかに傑出した書物だとしても、もうそろそろそれとは別のパースペクティブを切り開く必要もあるのではないか」との言明には大賛成である。その「パースペクティブ」が本書で本当に切り開かれたかどうかは、読者の各々の眼で確かめられたいが、発表された時期も媒体も方法も異なる論文集としての本書は、確かに『明るい部屋』の読解に新たな光を投げかけるものとなっているだろう。惜しくも早世した梅木達郎氏の論文など、得難い仕事が多数収められていて有益だ。特に出色だと思ったのは、滝沢明子氏、松本健太郎氏、長谷正人氏の論文が並べられた「『明るい部屋』の時間」と題された第5章である。「写真」と「時間」とは切っても切り離せない関係にある(というか、写真の「本質」とは時間なのだが)。
 バルトが写真に対してそうしたように、われわれがバルトの『明るい部屋』についてよく考えるためには、『明るい部屋』のページから顔を上げて視線を外す必要があるのだろうか。もしそうだとしたら、その視線の先に本書を置いておくべきだろう。







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