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現代における「崇高」とは
崇高の美学
桑島秀樹
No.2888 ・ 2008年10月04日




 「人間存在に内在する悲哀こそ、じつに「美」の問題と、なかんずく「崇高」の問題と密接に関係している」。この言葉から本書をはじめる著者はまず、何の変哲もない石ころと対峙し凝視することから、今に生きる私たちの「自然の、土の、肉体のはらみもつ崇高さ」について歴史的・具体的場面を提示しつつこれまで光が当てられなかった美学の一側面を抉り出してゆく。
 一八世紀アイルランドの思想家エドマンド・バークを経て、一九世紀、カントにおいて成立した西洋美学の哲学的歴史を辿った後、それらを乗り越えんとした異端ともいえる新しい崇高美学を紹介する。ラスキン=ターナーの「地質学の美学」、ゲオルク・ジンメルの「山岳美学」である。近代正統派の目指す「天」ではなく、「地」の世界へ下降・沈潜していく山行こそ、「ラディカルな思考がまさに受肉した崇高美学」となる。
 最終章では〈人間と自然〉の関係から「崇高」を論じることが難しくなった現代を、〈人間とテクノロジー〉の関係性に注目することで問い直し、その象徴としての「アメリカ的崇高」が論じられる。リオタールを引きながら、今日のグローバル社会の状況が「アメリカ的崇高」の帰結だとしたらそこにはどのような意味合い・問題点があるのか、と。
 その問いは、テクノロジーの悪の「精華」としてのヒロシマ・ナガサキの原爆体験を真に表象することは可能なのか、という問いにつながってゆく。原爆をめぐる歴史記述やアート、資料を通して保存された遺物を取り上げ考察することで「「凝視」を続けることではじめて、今は失われた出来事の全体がその機会ごとに「受肉」し立ち現れてくるという事実」を発見する。「崇高美学は、じつに「アート化」により何度も繰り返し「創造」され、そのつど〈かたち〉を与えられる可能性がある」と。
 「崇高」とは決して形而上に止まる概念ではない。ここで崇高をめぐる議論は、人間とテクノロジー社会という私たちが日々直面している大きな問題を考え直す、極めて実際的な対処方法を指し示す「モノサシ」、「メス」、「妙薬」なのである。







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