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評者◆小嵐九八郎
ロシア定型韻律詩の翻訳に三十五年――工藤正廣著『主題と変奏1916-1922 ボリース・パステルナーク詩集』(未知谷)
主題と変奏1916-1922 ボリース・パステルナーク詩集
工藤正廣
No.2886 ・ 2008年09月20日




 青春時代、第一次早大闘争が終わった時、まだかみさんになっていないかみさんの手を握ったのが映画館の中だった。手を握るべきか否かで悩んだわりには、映画の中身は、その音楽と共に深く刻みつけられている。パステルナーク原作の『ドクトル・ジバゴ』である。発音は『ジウァゴ』がロシアとしてはより正確らしい。ロシア革命を挟む激動を、ララというロシア的な謎を魅力として持つ女、トロツキーとスターリンをごっちゃにした印象の革命家の厳しさと孤立の影、ジバゴのインテリの正義心の動揺と弱さなど、なんか革命をも呑むような悲しいロマンで撮影されていた。それはそうで、この小説は当時のソ連では反革命的作品と断定され、映画はイギリスの監督で作られている。
 もっとも、当時は美貌であった、いや今でもなかなか良い女であるかみさんではあるが、「ある女と映画に行って手を握って、帰りにキスだったぜ」と同じ仲間に吹聴したら、露文のその仲間は「原作をロシア語で読むとな、映画的リアリズムを拒否する文体なんだぞ」と言われ、考えこんだ。ドストエフスキーは翻訳でも解り得るが、パステルナークはそもそも詩人なのでそうはいかないのだ。
 このことに、真正面から向き合い、しかもロシア語では定型韻律詩となっているのに、ほぼ三十五年を費し訳した人がおられる。元北大の教授で自身も詩人、作家の工藤正廣さんである。『主題と変奏1916‐1922 ボリース・パステルナーク詩集』(未知谷刊、本体1800円)。「三月よ、きみは何者なのだ?――氷でさえ/荒れ沸き立ち、そして気が狂った街路を/四輪馬車たちは疾走しながら/焦げて炭化する!」(『ニェスクーシヌイ公園』の中の「春」)なんつう、原文を解りたい衝動に駆られるのが無数ある。
 いずれにしても、工藤正廣さんは、パステルナークの処女詩集からこれで七冊目の詩集の翻訳(いずれも未知谷刊)、頭を垂れるしかない。 歌人に対しては、ロシアの定型韻律詩の存在に無知ではいられなくなる圧力をよこしてやまぬ。







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