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評者◆鴻農映二
ベトナム戦争の意味をユニークに描写――韓国映画「いとしい人は遠きに」
No.2884 ・ 2008年09月06日
新作の映画「いとしい人は遠きに」を観た。ベトナム戦争に派兵された夫に会いにゆく妻の話だ。ラストシーンが、ちと物珍しい。苦労の末、夫に再会した妻が、夫に駆け寄って抱きしめるかと思ったが、違った。夫の頬を平手打ちしたのである。それも、一回だけではなく、二回、三回と、何度も……。夫は、その場に泣き崩れる。妻は気強く立ったままだ。しかし、この映画は、夫婦の愛情の回復、或いは芽生えを、このように描くしかなかった。観客も、こうであってこそ、納得できたのであるーー。
実は、題名の「いとしい人」の部分は、反語で、本当はいとしくない人だった。夫は結婚前からの恋人に心を残し、妻には愛情も抱いていなかった。そして、恋人からの別れの手紙を貰い、ヤケになって、ベトナム行きを選択するのである。 妻は妻で、夫に愛情は感じていなかった。それが、姑がベトナムに行って息子を取り戻すというので、自分が行くと申し出る。慰問公演のバンドの一員として、ベトナムの地を踏んだ妻は、キャバレーで歌ったり、ベトコンに捕まったり、苦難を重ねる中で、見違えるように成長する(いい女に変化してゆく)。そして、戦闘中に失踪した夫を求め、危険地域に飛び込むのである。 夫も、戦友の死などを通じ、頑なだった心に変化の兆しが生じていた。銃弾の飛び交う中での、思いもかけぬ妻との再会。妻は、訳はどうあれ、夫を戦地に追いやったのは、自分の愛情のなさと、申し訳なく思っていた。それが、再会すると、謝罪の言葉よりも強い表現となって噴出したのだ。ラストシーンで二人は、初めて「夫婦」の情を噛みしめたのだった。この映画は、細部の逸話も含めようやく、韓国映画がベトナム戦争を見事に作品化した名作(満足度百パーセント)である。 |
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