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評者◆秋竜山
どっちの裁判ショー、の巻
No.2882 ・ 2008年08月16日




 裁判も、時代物の映画のような、桜吹ぶきのイレズミを見せびらかして見得を切るような裁判官だったら誰でもやってみたいだろう。現実の裁判官がどれほど格好いいものか、実際に裁判をしているところへ出かけたこともないからわからない。テレビドラマでは法廷場面が出るが、だいたいにパターンが決まっている。入部明子『その国語力で裁判員になれますか?』(明治書院、本体一〇〇〇円)では、裁判員になるにはこのような国語力を必要とする、という。裁判審理の流れの中で国語力が必要であるというのだ。国語力とは、これまたとてつもないむづかしいものである。
 〈二〇〇九年五月までに裁判員制度が始まります。選挙権を持つ誰もが裁判員になる可能性があります。その確率は六七人に一人とも言われており、一生に一回は裁判員となる日がやってくるに違いありません。明日、裁判所からの呼出状が届く可能性さえあります。〉(本書より)
 本書では、このような国語力では裁判官になれないということ。
 〈そんな話し方で裁判員にはなれますか? ①人前で話をすることは苦手だ。②話し始めると何を言うつもりだったか忘れてしまう。③言い返されると反論できない。④分からないことがあっても質問しない。⑤話をしても無視されていると感じることが多い。⑥沈黙は美徳だと思っている。⑦自分の考えを話す勇気がない。⑧人の話に迎合しがちだ。〉(本書より)
 そして、〈聞く力〉や〈読む力〉や〈書く力〉など。裁判所という所は、喜劇的である。だから、外国にはヒトコマ漫画で裁判漫画という分野があるくらいだ。日本にはないが、必ず裁判漫画というのがもてはやされるだろう。検察官や弁護人、被告人などキャラクターが個性的である点、漫画になりやすいだろう。
 〈裁判員になると……。人の話に流されやすい人は、検察官の主張を聞けば、「うん、なるほど。」と納得するでしょうし、弁護人の話を聞けば「それも、もっともだ。」と納得してしまうでしょう。また、被告人の話を聞いても「罪を犯すにはそれなりのいきさつがあるのだな。」などと納得してしまうでしょう。納得は、理解の一つの形ですから、そのこと自体は悪いことではありませんが、評議においてもそのような態度では支障をきたします。(略)事実と意見を分けて聞き取る力が必要です。〉(本書より)
 裁判は有罪と無罪を決めなくてはならないのだから、さあ!! どっち。ということになる。最高の国語力の中で判決がくだる。最低の国語力の中で判決がくだる。どっちが正しい判決だろうか。いままで日本に陪審制度がなかったのはどうしてだろうか。
 〈裁判が進行し、すべての証拠が出つくした。いずれも被告にとって極めて不利。とても弁護のしようがない。しかし、弁護士は陪審席にむかって最終弁論を始めるのである。「さて、陪審員のみなさん。ご愛読の推理小説でご存じとは思いますが、最も疑わしい人物こそ潔白なもので…」全く理屈はつけようである。〉(星新一『進化した猿たち』早川書房)
 アメリカ漫画である。日本にもこのような漫画が国語力によってうければよいのだが……ね。







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