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評者◆S
なし
瀬戸内の太平洋戦争 因島空襲
青木忠
青木企画
No.2882 ・ 2008年08月16日




 戦後六三年たったが、日本の侵略戦争によるアジアの人々の犠牲に対する国家的償いはいまだなされていない。沖縄戦や広島・長崎被爆や東京大空襲などの深い傷跡もいまなお癒されていない。戦争をめぐる重い事実のうちいまだに未解明なことも少なくない。本書は、戦争末期の一九四五年の瀬戸内海・因島空襲の真相を、抹殺と沈黙の底から掘り起こした貴重な記録と問題提起である。
 本書によれば、当時、因島には日立造船の一万人規模の大工場とイギリス人捕虜収容所があった。米軍は、九州北部から瀬戸内海および駿河湾にかけての大空襲で因島も攻撃対象とした。三度にわたり、民間居住地域を含めた無差別攻撃であった。犠牲者は一二〇~一三〇人にも上った。その中にはイギリス人捕虜、強制連行の朝鮮人がいた。生れて間もない著者は空爆を受けて仮死状態となるも蘇ったという恐ろしい体験をした。だが、戦時体制下で空襲の正確な事実も死者の数も隠された。戦後もその異様な状況が続いた。
 著者は数年間、調査活動を続け、二〇〇六年に決定的な証言を得て、空襲の真相解明がなった。その翌年七月二八日(三度目の空襲があった日)には、因島を挙げての空襲犠牲者慰霊祭にこぎつけた。
 本書は第二部で、戦後公職追放処分を受けた故巻幡敏夫氏の足跡をたどっている。戦勝国米軍の占領下における戦争責任追及の問題性を突き出している。空襲の真相が隠されてきたことと表裏一体であることが告発されている。
 著者は、広島大学に入学し学生運動に身を投じた。戦後版治安維持法と言われる破壊活動防止法の弾圧を受け、長期の裁判を闘った。因島に戻ってからも地道で精力的な活動をしている。著者のような人が中心になることで、因島の人々の長年にわたる苦悩を晴らす事業の基礎が築かれたのであろう。







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