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評者◆秋竜山
喫茶店で逢いましょう、の巻
No.2880 ・ 2008年08月02日




 阿久悠『歌謡曲春夏秋冬』(河出文庫、本体七六〇円)は、〈本書は二〇〇〇年五月、単行本として河出書房新社より刊行されました(原題「文楽 歌謡曲春夏秋冬」)〉である。たぶん、読んだはずである。でも、忘れてしまっている。だから、今、文庫という形で読んでみると、はじめて読むような気がしてくる。以前、出た本は家の中のどこかにあるはずだ。このようなことは今にはじまったことではない。よくあることで、ちっとも驚くことではない。そういう人が一人でも多くいれば、二度買いで出版社はホクホクとなるだろう(そーでもないか)。本というものは読んでいる尻から忘れていくというのが理想かもしれない。二度買い三度買いって、結構なことではなかろうか。そーまでして読んでしまうことは、よっぽど波長のあった読書ということになるのではないか。阿久悠さんは、もうこの世にはいない。いないけどいる。作品がある。作品がいる、といっていいだろう。本書もその〈いる〉の一つである。本書をポケットの中へ入れておく。いつでも取り出して読める。パッと出してパッと読んで一つのエッセイが終わりとなる。パッとわかるエッセイである。名文だからだろう。パッとわかるということでは、マンガでたとえると、コマを追うコミック物とちがう一枚マンガ、あるいはヒトコマ・マンガというところだろう。パッと見てパッとわかる。そして、パッと面白いのか面白くないのかわかる(すぐマンガにたとえてしまう職業柄の悪いクセだ)。本書は題名どーり、春夏秋冬はわけられて、エッセイの一つ一つに必ず、その時代に流行した流行歌の歌詞がのっている。
 〈ぼくが生れたのが昭和十二年、その年に日中戦争が勃発し、そのまま太平洋戦争に突入する。従って、もの心ついた時には戦時体制下の非常時で、〉(本書より)
 というから、その時代から現代にいたる記憶をよみがえらせている。私はずっと下になるが、それでも、同世代に生きた人間のように思えてくる。エッセイのどれをとっても「ウン、そーだったよねぇ。わかるなァ」といううなり声をあげてしまう。〈喫茶店〉という項目がある。
 〈小さな喫茶店に はいったときも 二人は お茶とお菓子を前にして ひとこともしゃべらぬ そばでラジオが甘い歌を やさしく歌ったが 二人はただだまって むき合っていたっけね (青木爽訳詞) (略)ぼくが生れる二年前に「小さな喫茶店」という歌は世に出ている。この歌の存在を知ったのは、もちろん、戦後のことで、結構ラジオでも歌われていたが、あの暗黒と飢餓の時代の向うに、こんなのどかな楽園のような場所と時間があったということが、不思議でならなかった。〉(本書より)
 あなたを待てば、雨が降る。(佐伯孝夫作詞)は、昭和三十三年の「有楽町で逢いましょう」で大流行した。その頃、私は有楽町駅前の喫茶店でマンガのグループをつくっているメンバー三人で待ちあわせた。「白鳥」という喫茶店であった。コーヒーの角砂糖を全部封筒の中に入れて持ち帰った。そんな時代であった? 今、喫茶店なんか、どこをさがしてもない。不便な時代である。







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