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評者◆小嵐九八郎
頭を垂れてしまった初めての歌論──穂村弘著『短歌の友人』(本体一九〇〇円・河出書房新社)
No.2878 ・ 2008年07月19日




 自称歌人である。つまり、短歌が好きなのである。無論、敗戦直後に出た桑原武夫の“第二芸術論 は知っている。桑原武夫のルソー研究や、唐詩への思いは、なお畏怖の的となっている。ま、しかし、桑原武夫は\"芸術\"を信仰し過ぎで、何といっていいか。詩人の小野十三郎も同じ頃に\"短歌的抒情の否定\"\"奴隷の韻律\"と定型詩を扱き下ろしている。これほど詩に熱心なことは立派だが、うーむ、ゲージツにイデオロギーなんつうもんでない絶対的な信頼をおいていて、それはそれで、かつての我ら“カゲキ派 と同じで、悲しくなるほどに生真面目で、泣けてくる。しかし、小野十三郎の主張は、ほぼ、方角オンチ。ゆくゆく出てくる、寺山修司、塚本邦雄、福島泰樹氏、道浦母都子さんなどの歌が、証となろうか。自由律は、演歌とポップスの詩以外、反乱と無縁、役立たずであった。観客を舐めていた。当たり前、役立たずでいいのである。無駄って、とても大切。本音である。
 というような、好い加減な地平から、娯楽小説家として、昔、銭湯で遊びの入れ墨を浮かべていたオッサンが浪曲を唸ったように、短歌を愛してきた。斜めとしても、歌論も、しゃあない、百冊以上は読んだか。ちいーっと偏り、無知のままで打ち明けると、天皇陛下さまの歌会の選者になってしまうある歌人の歌論の一冊だけが、ほお、と思わせた。五七五の上句と、七七の下句の対比、及び、短歌のみならず散文の“目の位置 の人称問題について触れていたからだ。
 ところで、九八郎めが、おおーっ、歌人って、こんなに、歴史と詩と言葉と風俗と社会の核を撃てるのかっ、と、口あんぐりの果てに頭を垂れてしまった初めての歌論が出た。穂村弘さんの『短歌の友人』(河出書房新社、本体一九〇〇円)である。やっと、やっと、吉本隆明氏の『言語にとって美とはなにか』に本質として至近距離で迫った。読んでためになるのは、二十代と三十代の短歌好きの人、そして、いきなり六十代以上の歌人か。この段差に呻きつつ、買って、悩もう。







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